2008年の映画評



ラースと、その彼女
人付き合いが苦手でコミュニケーションも上手くできず、ひとりぼっち感たっぷり。
もちろん彼女はいません。そんな青年ラースが主人公の映画、僕的には大好物です。
しかもラースがリアル・ドール(等身大の人形)を恋人だと思い込む話だなんて、
あまりにも魅力的な作品。観ずにはいられない。ご馳走。ヨダレじゅる。
で、バカバカしいゆる〜いコメディだと予想してましたが、いやいや実は違うんです。
取り上げて描いているテーマは意外に深刻。ココロの病。本当は笑えない内容なんです。
でもラース&人形が街の人々に受け入れられて生活している光景はたまらなく愉快。
単なるコメディではなく意味深い。解釈の観点も人それぞれ違うでしょう。
ラースがラブドールを恋人だと信じ込んでいるのか、それとも意図的にフリをしているのか…
それすらも映画を観る者の捉え方次第です。良い意味で不親切な脚本。


WALL・E
「嗚呼、ピクサーで働きた〜い!」と子供感覚で悪怯れず言いたくなるくらい、
ピクサー作品が大好きです。CGの技術云々が良いのは当然で、もっとアナログな要素、
例えばストーリー、キャラクター、カット割り、音楽…それらのセンスがなんとも素敵。
さわやかなジャズが流れる中、俯瞰の画でゴミの廃墟と化した街並みが映し出され、
ひとりぽっちのウォーリーが見え隠れするオープニング、いきなりココロ奪われます。
まるで無声映画のように綴られる前半、とてつもなく大規模な話へと展開していく後半、
大小の見せ場オンパレードで、非の打ち所がありません。鳥肌ものです。
しかもウォーリーとイヴの恋心的な下りはあまりにもありがちなベクトルなのに、
ストーリー設定のフォーマットが斬新だから、ベタがシュール化して真新しく見える。
お子ちゃまにはちょっと難しい、大人が楽しむエンタテイメントです。


俺たちに明日はないッス
童貞の男子高校生がクラスメイトの女子と、ただただ“やりたがる”という青春のお話。
それだけだと言っても過言ではない。平成版『パンツの穴』かと思っちゃう。
あるいは中山美穂デビュードラマ『毎度お騒がせします』とかね(^^;
でもタナダユキ監督作品だから、センスいいッス。『パンツの穴』みたく安っぽくない。
『百万円と苦虫女』もそうでしたが、決して綺麗事で丸く納めようとしない作風が良い。
ささやかながらも“救い”は提示されるが、何も事は解決していないストーリーが良い。
ちなみに本作、脚本を担当しているのは山下敦弘作品でもお馴染みの向井康介氏です。
タナダユキ作品みたいな“ひとりぽっち”テイストが匂う映画、好きです。
無理してポップさ加減を出した作品ではなく、ざらざらした感じが良いッス。
上映時間80分弱のコンパクトなとこも嬉しい。長けりゃいいってもんじゃないからね。


K-20 怪人二十面相・伝
これ、2009年度の正月映画。なんで?ど〜して?製作費掛かってるけどハズしてますよね?
力の入れ具合が明後日向いてるとか、正月ラインナップに不適切とか、そういうこと。
金城武、松たか子などキャスト陣は悪くないし、スタッフの技術も凄い。
第二次世界大戦が起こらなかった架空の東京を作り上げた映像は見応えあります。
さすが『ALWAYS』の東宝。でも何故?WHY?つまらない。おもしろくない。
いや、全般的にはまあまあ観れる。可もなく不可もなく。惹きつけられず退屈せず。
やっぱり“怪人二十面相の正体は誰だぁ?”のオチが問題かなぁ。
その展開やっちゃう?そりゃないよって思って興醒め。どうせならもっと捻ってほしい。
決して子供向きではない、大人も充分楽しめる娯楽大作…ってよく言われるけど、
それが裏目に出て老若男女問わず“いまいち”な結果になっちゃってるように思います


平凡ポンチ
秋山莉奈”と聞いてイメージするものを三つ挙げてくださ〜い。
オシリーナ、24のひとみ、狩野永孝。どうです?こんな感じでしょうか。
『平凡ポンチ』!と真っ先に声を荒げる人、あまりにもマニアックです(^^;
え?秋山莉奈を知らない?まあ、それが多数意見かもしれませんねぇ。
そんなオシリーナが主演の映画、魔が差して観てしまいましたぁ。
巨乳に憧れる女優志望と売れない映画監督の逃避行って設定の話なんだけど、
お察しの通り、おバカな内容です。あからさまにドB級!しかも笑えません。
笑えない“おバカ”シーンに逆に笑ってしまう。久々に困った作品です。
佐藤佐吉監督自ら出演してるし、80年代のアングラ映画?って雰囲気を醸し出してます。
秋山莉奈ファン並びに原作ファンは必見ですが、それ以外の方は…まあね。


ブラインドネス
近年ありがちな謎だらけのパニック劇?例えば『ハプニング』みたいな?
あるいは『フォーガットン』ですか?だったらあまり観たいと思わないなぁ。
いやいや違うんです。人々が伝染病に冒され、次々と盲目になる。
その原因を探るストーリーでもない。むしろ人間の狂気、集団心理を扱った作品です。
そういった意味では意外。収容所に隔離された者たちの集団生活を描いています。
疑似刑務所で心理実験を行う『ES』、閉鎖的な村人の表裏を描いた『ドッグヴィル』、
本作はそんなタイプに属する作品と言っていい。故に辛くて重たくて、観終わった時、
どんより嫌な気持ちになります。だからって安っぽいホラーやオカルトの印象ではない。
人間の本質的な“醜さ”をしっかり抽出しているので、見応えあります。
上質だけどブルーな気持ち!を予め覚悟した上でご観賞ください。


僕らのミライへ逆回転
好きな監督、好きな脚本家、そんな具体的な嗜好があれば観たい映画が明確です。
僕はウディ・アレンが大好き。チャーリー・カウフマンの脚本も好き。そして本作のミシェル・ゴンドリー。
彼の作品にハズレはない。かつては音楽ビデオの監督で、彼のPV集が発売されているが、
そのDVDに個人的に撮影したかのような安っぽい短編ムービーが収録されている。
自分のうんちが人格を持ち常に付きまとう…最高にくだらない、おもしろい短編。
本作はそんなテイストを“まんま長編にした”みたいな作品。実に馬鹿馬鹿しい。
『ロボコップ』や『ゴーストバスターズ』、数々の名作を自作自演してビデオを作る話。
その手作り加減のチープさは大爆笑。映画マニアならヨダレだらだらでしょう。
そしてクライマックスでは意外に感動。こんな馬鹿っぽい映画なのに涙うるうる。
ミシェル・ゴンドリーはセンスが良い。そんな彼を好きな自分もセンスが良い…ですか?(^^;


トロピック・サンダー / 史上最低の作戦
“読み捨てられる週刊誌”みたいな他愛ないB級映画だと思ってませんか?
早合点しなさるな。本作、実は結構“掘り出しモノ”でございます。珍品。
落ちめになったハリウッド俳優三名が再起を掛けて戦争映画に出演するという話で、
その監督らがリアルさを追求する為、役者たちには内緒で本物の戦場で撮影しちゃう。
ストーリー設定の面白さをおかずに飯三杯はいけます。本年度おバカ映画ナンバーワン候補。
ギャグ満載の洋画って、日本人には言葉の壁的な理解しがたい笑いが幾分あったりするが、
そういうのを差し引いても本作は大爆笑間違いナッシング。嗚呼、なんておバカ!
何がって“全編いちいち面白い”んです。全てが楽しい。映画に詳しい人はさらに笑えます。
カメオ出演も大いにサプライズだし、とにかく冒頭から粋な始まり方です。素晴らしい。
監督・脚本・主演のベン・スティラー、彼のセンスを堪能できる秀逸な作品です。


ハンサムスーツ
小腹がすいたのでマクドナルドでバーガー買って歩きながら食べましょう…
みたいなライト感覚で笑えて楽しめる、バカバカしいだけの映画でしょ?
言い換えると“ただ、それだけ”の作品だと思ってました。いやしかし、侮るなかれ。
作り手の愛情がたっぷり込められた温かな料理、美味しい美味しい晩ご飯です。
鈴木おさむ脚本だから、センス良い笑いが詰まってるのは当たり前の大前提。
それでいて“人の気持ち”を大切に丁寧に描いてるので、意外と内容に深みがある。
容姿コンプレックスをここまでストレートにテーマに据え、笑えた上にちょっと感動。
本年度の邦画ベストテンにランキングしたい逸品です。感情移入してしまいました(^^;
観客ターゲットは若者でしょうが、30代以上にしか分からない笑いもあるので要注意。
何気に、ドランク塚地の出演作にはハズレがないですねぇ。次はどんな映画に出ますか?


ハッピーフライト
“矢口史靖監督作品にハズレなし!”これが先祖代々継承されているウチの家訓です。
と言ってもいいくらい、矢口センスは間違いない。絶対おもしろい!
が、ホームランバッターが惜しくもフォアボールでの出塁となってしまいました!残念。
本作、そんな感じです。とある航空機の便が離陸して着陸するまでを描いた、ある意味、
フライト・ロードムービーで、パイロット・CAは勿論、整備士や管制塔のスタッフ、
その他、一般的にあまり知られてない仕事スタッフも物語に関わり、
一丸となって航空機を操る…みたいな感動的要素とコミカルな場面で構成されてますが、
いまいち盛り上がりに欠け、見せ場が見せ場として成立していない印象を受ける。
特に誰が主役という訳でもない群像劇だが、いろんなキャラクターが登場するわりに、
巧く活かしきれてない。消化不良気味。個人的には矢口作品の中で最下位にランキング。


イーグル・アイ
ある日突然、悪い事な〜んにもしてないのにFBIに追われる身になり、
誰かが電話で逃げ道を指示してきて、声の主は何でも知っていて全知全能…
そりゃ怖いよ。自分に置き換えてみたら、めちゃ恐ろしい。何がなんだか分からない。
映画の中でも一体何がどうしたのか分からない状態で、謎が謎のまま展開するので、
興味津津で観続けてしまいます。しかもカーアクションとか見せ場の連続技たっぷりで、
気持ちはハラハラドキドキ模様。テーマパークのアトラクションにライドしてる楽しさ。
まあ“謎”は知らぬが花で、オチを見てしまえば「ふ〜ん」って、ちょい醒めます。
サプライズ・ストーリーって、いろんなタイプの映画があって、出尽くした感があるが、
そんな中、本作は平成20年現在、わりと見応えのある作品群のひとつです。
とにかく、最後の最後はキレイに丸く納まるので、安心して御観賞ください。


ICHI
チャンバラ劇と言えば、おじさんおばさんが観るもの…というイメージが強かったが、
近年、『椿三十郎』『隠し砦の三悪人』のような若者も楽しめる時代劇映画が増えてきた。
その中でもピカイチ作品は『あずみ』だと思ってる僕は、ついつい比較してしまう。
そして本作に対して「ああ残念でした。惜しい!」と思ってしまう。
まず何より話があまりにもベタ。分かり易過ぎる展開にげんなり。斬新さの欠片もない。
まあ昔ながらの“座頭市”だから仕方ないが、もうちょい工夫したエピソードが欲しい。
出演陣は豪華だが、これまた難あり。個人的には好きだが、綾瀬の殺陣はどうなんだか?
見せ場である殺陣アクションがわりとスローモーションで、なんだか誤魔化してる感じ。
中村獅童は中村獅童にしか見えず、窪塚洋介は窪塚洋介にしか見えない。
つまり、どんな役を演じても本人のキャラが先行して、劇中の役柄に見えないってこと(^^;


ウォンテッド
退屈で怠惰な毎日を暮らす、地味な青年が主人公。とっても卑屈。
彼の日常をモノローグスタイルで紹介するところから映画は始まる。わりとコミカル。
青春ラブコメでも繰り広げられる?と思っちゃうけど、本作、実はアクションムービー!
青年が暗殺者組織に誘われて、スナイパーとして活躍する、お話。
題材そのものは真新しくないが、映像演出や脚本が意外と面白い。棚から牡丹餅。
アクション場面は目紛しく派手だし、映像が逆回転したり、見慣れないアングル画もユニーク。
スナイパーの訓練過程も何気に笑えます。ミュージックも効果的。
やや複雑な“ひねり”が施してあるストーリーなので、クライマックスではサプライズ!
並みの作品ではなく、いろんな要素が少しずつ良いアイデア!てな感じの、見応えある佳作。
アンジェリーナ・ジョリーは非日常的なキャラクターがとってもよく似合います(^^;


おくりびと
納棺師という職業を描いた“松竹”の邦画。主演は本木雅弘。他に山崎努、余貴美子…。
ご年輩向けの、昭和テイストで保守的な退屈映画だろうと覚悟していたが、意外や意外、
厚みのある奥深〜い秀作。良い映画を観たなぁ!と充実感を伴う、素敵な“大人”向け。
周囲から蔑まれつつも、納棺の仕事にプライドを持つようになる主人公の心情変化など、
セリフを多用せずに、シーンの“行間”で魅せる構成・演出が、実に奥床しい味わい。
納棺の儀式から始まる冒頭シーンは、緊張と緩和を巧く表現し、いきなり観客の気持ちを掴む。
死と向き合う厳粛な内容なのに、時折ユーモアが演出されて、粋な“笑い”がある。
やり過ぎず、やらなさ過ぎず、とても上品。そして静かに泣ける。
本木雅弘の納棺師っぷりも圧巻で、チェロ演奏も含め、うっとり見惚れてしまう。
素晴らしい映画の中で観るからかも知れないが、広末涼子は、他の出演作よりも綺麗だと思う。


TOKYO!
意外と…、という言葉は便利だ。どう便利なの?現金が無くともカードで欲しい物が買える。うそ。
文章A+意外と+文章B、AとBは真逆の語意になる場合が多い。意中に反して…、ということ。
感想を述べたり、批評を執筆するにあたり、使いようによっては、フォローの効果をもたらす。
例えば、意外と遠い、と書くと、言わずもがなに、近いと思っていたんだよ!が含まれる。
決定的な所見ではない、あるいは、逆説的な捉え方も可能、というニュアンス。
で、本作について書きます。意外とつまらない、です。微妙な意味合いを察してください。
面白いだろうと大いなる期待を抱いてた訳です。皮算用の理由は凡そ二点。
大好きな監督、ミシェル・ゴンドリーとポン・ジュノの作品、それらを同時に観賞できる。
加瀬亮、香川照之、蒼井優、竹中直人、伊藤歩…豪華な役者陣でスクリーンに華がある。
意外とつまらない、を誤解しないでください。あくまでも、意外と…、ですから。


パコと魔法の絵本
2004年、後藤ひろひと作の舞台『MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人』を観た。
台詞、構成、ストーリー、全てが素晴らしかった。後藤ひろひと大王のファンになった。
その舞台が映画化!しかも監督が中島哲也。僕のココロの中はお祭り騒ぎ。サプライズ!
小説や漫画が映画になると、原作と違うテイストで仕上がる場合があるが、本作は忠実。
原作の戯曲が完璧なのです。そして中島監督マジックが加わり、無敵のパワーアップ!
現実的な悲しくて温かい話と、非現実的で過剰な映像演出が、信じられない奇跡の調和。
どんなジャンルの作品でも“笑えて泣ける”ものが最上級だと、ずっと思ってましたが、
本作の舞台版を観た時、更にその上があるんだなぁと衝撃を受けました。それは…
“笑いながら泣ける、泣きながら笑える”作品。いい意味で、感情が弄ばれて気持ち良い。
点数なんて口幅ったいですが、大王の原作100点。監督のセンス100点。合わせて本作200点。


デトロイト・メタル・シティ
♪まどろむ表通り抜けて夏をもぎとった君と〜なんとなくブラブラしたり大きな声で叫んだり…
おおっ、カジヒデキ!ソロデビュー後しばらくの間、かなり聴いてましたぁ。
アルバム五枚程買いましたぁ。当時、僕が好きだったコが「聴きたい」と言うので貸した。
結局いろいろあって、CDは未だに返ってこないまま。そんな思い出のカジヒデキ。
映画評およそ半分、カジヒデキの思い出しか書いておらず、これが映画評なのか否か?
でも本作を観て、一番印象に残ったのがカジヒデキなんです。映画の中身はと言うと…
面白いストーリー設定なんだけど、う〜む、脚本?監督のセンス?良くないです。
なんだか昭和の邦画を観てるようなテンポの悪さ。言い換えると“真面目な演出”って感じ。
もっと工夫して、ハチャメチャな映像にして欲しかったなぁ。勿体ない。
しかしまあ、松山ケンイチは作品ごとに表情が違うねぇ。ザ・役者!素晴らしい。


20世紀少年 -第1章-
後ろ座席で観ていた20代らしき女性が、上映後「漫画を読んでたから驚かなかった」と言ってた。
そうなんだなぁ。原作を忠実に描いてるから、お話を周知なら衝撃はないよねぇ。
僕は「漫画を読んでなくて何も知らなかったから、とてもびっくり!」とココロの中で呟いた。
だってだってだって、凄いストーリーなんだもん。終始ドキドキ、ハラハラ。
凡そ二時間半、ずっと緊張感が持続して、退屈なんてしやしねぇ、でした。
半年後の第二章と、約一年後の第三章が待ち遠しい。いや、待ってられない。
原作ファンと、僕みたいな無知人種と、本作の観方が随分違うんだろうなぁ。
賛否両論系だね。でも映像的にもよく出来てると思います。完成度高いです。
『トリック』『ケイゾク』『ご近所探偵TOMOE』の頃は堤幸彦センスが好きだったけど、
最近は当たり外れが目立つ。それ故に本作も眉唾に思ってましたが、そんな心配ご無用でした(^^;


アクロス・ザ・ユニバース
映画に限らず、どんなものでも、観方の側面によって印象が違う。
例えば本作を、創作者、作り手の視点で捉えるなら、「すごい!」と感心してしまう。
ビートルズ楽曲だけを使用したミュージカル映画だが、ただ単純な挿入曲扱いではない。
セレクトした33曲の歌詞やメロディを、吟味して吟味して吟味しまくり、その結果、
楽曲を基にストーリーを構築し、登場人物のセリフを作る。嗚呼、偉業!オーマイゴッド!
それ故に、ジョンとポールが書き下ろしたの?と見紛うくらい、物語に見事マッチしている。
話の流れも無理矢理な感じがしない。登場人物の名前がジュードやルーシーなのはご愛嬌(^^;
どうっすか?そんな荒技、あなた出来ますか?ジュリー・テイモアに拍手喝采。
が、しかし、そんなこんな創作背景を無視して、映画のストーリーだけを観るならば、
ちっとも面白くない。こういうベタな恋愛話、青春もの、僕個人的には全く魅力ないです。


ジャージの二人
こういうタイプの映画が増えてきましたねぇ。現実の辛さや厳しさを率直に投影しつつ、
フォーマットは“ゆる〜い”雰囲気で、まったりと優しく、抑揚のないストーリー展開。
登場人物の日常の悩みや問題を具体的に解決することなく、でも、
ささやかな“救い”は提示されていて「ほっ」とした気分で終劇するタイプの映画。
90年代はたまに見かける程度だったが、ここ数年、顕著に多いような気がします。
こう多いと、ありがたみが薄れます。いや、大好きなんですけどね。
中村監督に失礼だが、本作を三木聡や山下敦弘の演出で観てみたい。
全編を通して、もっとクスクス笑えるテイストにした方が面白くなる…
本作を否定してる訳ではありません。僕の好みの問題です、はい。
ということで、好きな作品群のひとつではありますが、ちょっと惜しい感が否めない。


片腕マシンガール
本作に興味があり未見のAちゃん、既に観賞済のB氏、二人の会話。
A:この映画どんなですか?面白い?面白いってのもいろんな観点があると思うけど…
B:PTA的な目線で観る人には無理だね。『キル・ビル』好き?
A:タランティーノの映画、好きですよ。センス良いですよね。
B:じゃあ、観て楽しめるはず。女子高生が主人公の日本版『キル・ビル』だもん。
A:ああ、和製グラインドハウスって感じ?好き嫌いはっきりするタイプの映画ですね。
B:かなりグロいし、意図的にB級な作りだし、冗談通じない人には分からないだろう。
A:女子供にはウケなさそうなマニアックな内容なんですね?そういうの好きですよ。
B:へぇ、こういう映画の良さを分かる人、とっても好きだなぁ。
A:もしかして、遠回しに私に告ってます?
B:いや、あの、えっと、その…


カンフー・パンダ
お子ちゃま向けアニメ?いやいや、大人が観ても面白い内容です!
と言えば聞こえはいいが、ネガティブに捉えれば、子供も大人も大満足する程ではなく、
老若男女が皆、そこそこ楽しめる映画。どっち着かず。中途半端。
と言えば聞こえは悪いが、全世代のツボを押さえるのは難しいことです。ご立派。
ドジで間抜けな主人公が、周囲のサポートや自身の気持ちの変化で強くなり、
最後はヒーローと化していく…てな古典的なベタ・ストーリーが分かり易い。
個人的な印象に残ったポイントは三つ。まず、画がキレイ。そして豪華な声優陣。
パンダはジャック・ブラックそのもの。彼が中に入ってる着ぐるみ実写映画の様です(^^;
一番好きなのは、龍の巻物とラーメンの秘伝スープの下り。目からウロコです。
“自分を信じて自信を持つ”というテーマはシンプルだけど大切なことですねぇ。


純喫茶磯辺
とにもかくにも、本作を観て一番印象に残ったのは、仲里依紗です。
今まで彼女に興味無かったけど、本作での存在感は格別なんです。
可愛いなぁ、演技上手いなぁ、こりゃ良いぞ!遅ればせながら、今から注目いたします。
以前から大好きな女優・麻生久美子。そして宮迫博之。本作はキャスティング勝利。
もちろん吉田恵輔監督のセンスも勝因です。ゆる〜いタッチのコメディですが、
登場人物のデフォルメされた分かり易いキャラ設定がおもしろい。セリフの“間”も良い。
見た目だけでは分からない人間の機微・本質をさらりと描き、笑いに繋げつつ、
切なさや悲しみも感じずにはいられない…意外と奥行きのある作品です。
たまに取って付けた様なベタな“笑い”もあるので、そこは目をつむりましょう(^^;
吉田監督の前作『机のなかみ』も、地味な配役ですが面白いです。


たみおのしあわせ
オダギリジョーが主演、麻生久美子がヒロイン、岩松了が監督を務める…
勝手に『時効警察』のノリを期待してしまいました。つまり三木聡テイストかなぁと。
そんな歪んだ観方をしていた僕が悪いんです。“いまいち”と思った僕をお許しください。
何ら期待せずに観るならば、それなりに楽しめます。あ、また口が滑りました?すみません。
親父と息子、親父の恋愛、息子の結婚…まったりとした雰囲気だが、
意外にドロっとした展開と化し、ブラック・ユーモアな作品となっております。
特に終盤、結婚式の結末は映画史に残る名シーン!だと言ってもいいくらい。
予想外だったので、思わず笑ってしまいました。斬新、ですよね。
それと観終わって印象に残るのは、岩松了はかなり携帯が嫌いなんだろなぁということ。
麻生ちゃんは相変わらず素敵な映画女優です。本作はちょいと“汚れ役”ですがねぇ。


ハプニング
M・ナイト・シャマラン監督作品、世間的にはかなりひんしゅくかってるみたいですが、
僕は意外と好きなんですねぇ。脚本だけ担当した『スチュアート・リトル』は除いて、
『シックス・センス』以降の“あの”一連の映画、どれもこれもフェイバリットです。
確かに目が点になるストーリーばかりですが、提示されてるメッセージは本質を突いてる。
あらゆる出来事に意味があるとか、誰しも生まれてきた役割があるとか、なんとかかんとか…
そういったことを描くためのフォーマットが“おバカ”な印象を与えちゃうんだけどね。
ただし今回は、そんな擁護派の僕も見て見ないフリをしたい気持ちです。
趣味の悪いデス映画。VシネのB級ホラーみたい。おっぺけぺぇ(^^;
ナイト・シャマラン曰く「緊迫感が持続する映画を作りたかった」らしいので、
その点は成功してますから、それでいいんじゃない?めでたし、めでたし。


崖の上のポニョ
例えば、宮崎駿が厨房で腕前を振るっているレストランがあるとする。
そこの料理は実に素晴らしく、古くは『ナウシカ』『ラピュタ』、近年の名物には『千尋』などがある。
どのメニューも見たことないような盛り付けで、他の店は真似できないほど絶妙に美味い。
誰でも手に入る素材を使っているが、その調理法や味付けはシェフ独自のものである。
ちなみに僕が一番最初に“宮崎シェフ”を意識して口にした逸品は『カリオストロの城』で、
今でも大好きな料理だ。そんな店が新メニューを出すなら、訪れて食べない訳にはいかない。
期待に胸を膨らませている僕の目の前に出されたものは、極々シンプルなカレーライス。
拍子抜けだ。いつも得体の知れない見栄えが楽しみな僕は少し落胆した。
ただ、『ポニョ』という名の魚を使っている点は珍しかった。微妙なシーフード・カレー。
不味くはない。特別に美味くもない。思わず深読みしたくなるシーフード・カレーなのだ。


百万円と苦虫女
土地から土地への渡り鳥。まるで『男はつらいよ』のガールズ版。渥美優ですか?(^^;
でも人情深くはない。むしろ人との関わりを避けるかのような暮らしを営む蒼井寅さん。
百万円…というか、引っ越し費用が用意できたら、見知らぬ町へ向かうガールズ寅さん。
何故そんな生活をしていますか?の理由も冒頭を観れば一目瞭然。ああ鈴子はつらいよ。
転転とする理由も含めて“生きるって辛いなぁ!”を、余計な装飾をせず地味に描く。
決して小綺麗にはまとめない。良い意味で、広げた風呂敷を映画ご都合的に畳まない。
だからって後味が悪い作品だと思うなかれ。小さいかも知れないが“救い”もあります。
まあ、そこだけ映画ご都合的さがちょっぴり。とにもかくにもセンス良い逸品です。
ひとつの町で一本、本当に寅さんみたくシリーズ化してほしいくらい。
ドラマチックさ加減が薄い、リアルな『男はつらいよ』ガールズ版、連ドラとかどう?


ぐるりのこと。
そもそも人生って厳しいですよね。生きることは切ない。ああ、しんどい。
テレビやネットで凶悪事件のニュースを見て知った時、衝撃を受けるけれども、
それより何より、自分が抱えてる悩み、自分の人生の辛さの方が切実に思える。
その反面、世の中の出来事と比べれば、自分の問題なんて些細なことのように感じたり…
そんな気持ちを具体的に、でも露骨ではなく、巧みに映像化しました、みたいな映画です。
木村多江とリリー・フランキーが演じる夫婦の悲喜こもごもなドラマと、
90年代に起きた実際の大事件を並行して見せる。決して押し付けがましい演出ではない。
重たい。ずっしり中身の詰まった箱を持たされる感覚。でも、センス良い描き方なので、
観賞後に嫌な気分だけが残る訳ではない。むしろ“良い映画を観た”という爽快な印象。
木村多江とリリー・フランキーの会話劇は絶妙で、特に冒頭のシーンは笑えます。


西の魔女が死んだ
昭和の匂いがする、ある意味オーソドックスなカット割り、構成、演出。
それでいて、時折、垣間見られる“平成風なコミカルさ”を意識した映像演出。
話そのものは、ほのぼのとして気持ちいいのだが、監督のセンスのせいか、
観ていて、なんだか居心地の悪さを感じてしまう。作品内的違和感。
う〜む、ちょっぴり残念。でもまあ原作が良いから、全体として、
そう悪い作品にはなってない。なんだかんだ言っても最後はホロリ泣けちゃう。
チラ読みしかしてないので、無責任な記述になって申し訳ないが、
映画よりも、梨木香歩の原作小説を読む方が、作品の味わいを楽しめるはず。
余談ですが、脚本を書いた矢沢由美は、長崎俊一監督の奥様“女優・水島かおり”です。
さらに余談ですが、こういう映画を平日の昼間に堂々と観られる自分の生活が嬉しい。


ミラクル7号
8時だよ、全員集合!♪えんや〜こらや、どっこいやっさ、こら〜や、みたいな映画。
ドリフのコントを観てる感覚に近い。褒め言葉として書きますが、実にバカバカしい。
貧乏親子と得体の知れぬ宇宙生物!って設定だけで充分おバカでしょ?
嘘はつくな!喧嘩はするな!等々のシンプル・イズ・ベストなメッセージと、
分かり易いストーリー・フォーマット。そしてベタなギャグが満載。
遂にはウンチ・ネタまで持ち出す始末。逆にある反面、感服っす。素晴らしき哉、B級映画!
しかも、チャウ・シンチーは計算高く意図的にB級映画を作り上げている。
主人公の少年もそうだが、実は男子役を女子が、女子役を男子が、大人が小学生を演じてる。
つまり、無秩序感が至極当然のこととなり、映画の中ではハチャメチャさがまかり通る。
そんな世界観に巻き込まれた観客は、不覚にもベタなクライマックスで涙してしまう。


JUNO / ジュノ
16歳のジュノが妊娠しちゃって、環境的にもメンタル的にもいろいろ巻き起こる…
てな内容の軽妙なコメディ。なかなか見心地が良い。こういう作品、好きです。
重たくシリアスなテイストになり気味な題材を、意図も簡単にコメディに仕上げるなんて、
お見事です。“簡単に”ではないのかも知れないが、苦心を感じさせないあたり、
さらに見事です。ドタバタ喜劇のノリではなく、会話でユーモアを紡ぐ、
“やり過ぎず、やらなさ過ぎず”の具合が丁度良い。グッド・バランス。
登場人物キャラ設定も、ドラマっぽいご都合主義的な小綺麗なものではなく、結構リアル。
派手に目立つ訳ではないが、さらりと巧い作品です。センス良いです。
脚本は本作がデビューのディアブロ・コディ。面白いブログを書いてることがきっかけで、
脚本家に抜擢されたそうだが、彼女の次回作が実に楽しみ。期待してます。


ザ・マジックアワー
三谷幸喜のセンスを大信頼してますが、『みんなのいえ』は僕的に不発でした。
『有頂天ホテル』は楽しかったが、細かいエピソードが多過ぎて、若干ストーリー散漫気味。
しかし本作は『ラジオの時間』に匹敵する極上のエンタテイメント作品です!
出演陣が豪華なのは前作同様だが、大風呂敷を必要以上に広げてない起用の方法が見事。
そして“嘘を隠し通す為に嘘をつき、その嘘を隠す嘘をつき、そのまた…”
三谷すこぶる絶好調なお得意パターンの展開が堪能できるのも嬉しい!
嘘が重なり合って偶然にも会話が成立する場面は、三谷ファン号泣ものです。
まるで舞台劇を観てる感覚に陥ります。いや勿論、映画だからこその演出も山盛りです。
最大公約数な“笑い”を意識しつつ、マニアックなツボも刺激する三谷幸喜は最高です!
本作は楽し過ぎて幸せな気持ちになり、嬉し涙がこぼれます。本年度ナンバーワン候補。


僕の彼女はサイボーグ
クァク・ジェヨン作品も綾瀬はるかも好きです。しかも綾瀬はサイボーグ役!
こんな面白い設定、三つ巴で最高の映画…と言いたい気持ちいっぱいですが、
本作、アイデア一発勝負的な印象です。深みが無いとか演出が悪いという意味ではありません。
むしろ、巧妙に計算された脚本と言ってもいいくらい。が、実はそれが眉唾なんです。
広げられるだけ広げた大風呂敷を巧く畳もうとして、最後は反則技を連発。やり過ぎ。
無茶苦茶。整理整頓されたカオス。キムチをフリスク代わりに食べるイメージ(^^;
彼女がサイボーグだから巻き起こる、日常の細やかな面白可笑しいエピソード。
その積み重ねで構築された前半部分は観てて楽しい。微笑ましい。
でもクライマックスはあまりにスケールが大きくなり、作品と観客との温度差が生じる。
ストーリーの“つじつま”を把握し切れない人も居るんじゃないかなぁ。


アフタースクール
人を騙したり、嘘をついたり、信じてくれてる相手を裏切ったり…
そんな不誠実はいけません。悲しいです。でもそれは日々現実の中で、という注釈付き。
小説やアニメ、TVドラマや映画…あらゆるエンタメには気持ち良〜く騙されたい!
そんなあなたを満足させてくれる逸品がこちら。『アフタースクール』です。
世間的にいまいち知られていないが、内田けんじ監督の前作『運命じゃない人』は名作!
それを観ちゃったら新作も観ない訳にはいかないっしょ。ということで期待して 観る…
ん?今回のは出演陣が豪華だけど内容は案外フツーだなぁ、と思っていたら、なんと、
中盤でサプラ〜イズ!えぇ?騙されたぁ!こういう話だったの?おったまげましたぁ。
騙されて爽快。心地いい嘘八百。内田けんじのセンス良さに乾杯。
事の真相を分かって以降、止まない笑顔で最後まで観賞しちゃう。最後の最後まで観るべし。


隠し砦の三悪人
長澤まさみの演技力、まあまあ見られるようになったなぁ、とか、
松本潤の髭が似合わないなぁ、とか、なんで宮川大輔なの?とか。
そういうことはさて置き、本作、良い出来です。…アイドル映画にしては(^^;
黒澤明のリメイクだし、東宝が力を入れてるのも分かるが、アイドル映画の延長に見えちゃう。
だって、東宝の長澤まさみ出演作って、プロモーションの匂いがぷんぷんするのねぇ。
しかも相手役、というか主演が松本潤でしょう。アイドルありき!な映画にしか見えない。
樋口真嗣監督だから映像にセンスはあるんだけど、それでもやっぱりアイドル映画。
別のタイトルを付けるなら『アイドル映画に毛が三本』てな感じ。
敢えて“アイドル主演の時代劇”というカテゴリーで比べるならば、
北村龍平『あずみ』ほどの斬新さ、衝撃度が本作には感じられない。


少林少女
なんですかコレは?何がしたかったの?ワイヤーアクションをしたい為の映画ですか?
柴咲コウを主演に作りたかっただけ?ラクロスを取り上げたサクセス・ストーリー?
いろんなことが実に中途半端で、焦点がボケまくり。何がしたい映画なのか把握できない。
少林拳の深い話でもないし、ラクロスも盛り上がらないし、アクションも見応えない。
本作の構成要素どれも描き方が浅い。だとしても、爆笑できる馬鹿馬鹿しさがあればいい…
が、笑えない。本広克行監督どうしたんですか?本当に本広監督作品なの?信じたくない。
『踊る…』『サトラレ』『サマータイムマシン・ブルース』など、センス良い本広監督と、
笑撃だった『少林サッカー』のチャウ・シンチーが作ったんだから、期待して観る訳です。
そして見事に期待を裏切られた“がっかり度”は、近年稀に見る落差でした。
ただ、あまり言えませんが、山崎真実が素敵なことになっていて、むむむ、何気に注目です(^^;


魔法にかけられて
生粋のディズニー映画で笑顔のまんま劇場を出たのは久しぶりぶり。
ディズニー、やるじゃ〜ん!しかも、ディズニーじゃないみたいな作風。
だって、ディズニーを悪気いっぱいパロディーにするのはドリームワークスの十八番。
なのに、ディズニーがディズニーをパロっちゃいましたぁ!的な内容。ぬぬ、侮れん。
前半はかなりベタな場面が続きます。ディズニーアニメの王道・オブ・王道。
が、しかし、それはフリです。王道が通用しなくなる展開への序章なのです。
アニメの世界から抜け出たヒロインが、現実、つまり実写映像と化して現われる。
パロディとしてのミュージカル・シーンが成立する。単純アイデアなのに、べらんめえ楽しい。
まあ“無理矢理ハッピィ・エンド”な終着点ではあるが、それは気にせずに、
ファンタジーな世界観に身を委ねて、素敵な音楽を堪能してちょーだい。


受験のシンデレラ
家庭の事情で高校を中退し、一円、二円を節約しながら悲観的に暮らす女のコ。
富も名声も手に入れたが、余命僅かと宣告された大学受験のカリスマ講師。
ある日この二人が出会い、東大合格を目指す!というストーリー。
矢吹丈と丹下段平のやり取りの如く、受験勉強の鉄則が次々と示される。
だったら本作は受験に関するハウ・トゥー映画なの?いいえ、感動的な人間ドラマです。
主要登場人物の人生背景を描きつつ、“人は誰でも変われる”というポジティブな内容。
だだねぇ、受験知識の部分も人間ドラマの部分も中途半端な印象が否めない。
観る側のココロをどっぷり掴みきる前に終わってしまう感じ。残念。
でも、それでも、最後はベタに涙してしまうんだけどね。簡易的な感動(^^;
スピード感や巧妙な展開は見られない、昭和テイストの日本映画です。


クローバーフィールド
おお、すご〜い!やられた!おったまげた!と安っぽい感嘆フレーズで始めてみました。
ども。こんばんは。手ブレ映像カーニバル『HAKAISHA』の映画評でございます。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』類のアイデアですが、本作の方が数十倍“出来”が良い!
第三者視点ではなく、一人称、物語の当事者目線で描くからこその面白さがたっぷり詰まってる。
故に、破壊される街のど真ん中に自分が居る、という錯覚に陥る。恐怖アトラクションです。
しかも、パニックの事情を把握してない側からのフェイク・ドキュメンタリーだから、
あらゆる辻褄合わせが説明されない必然に説得力がある。巧いねぇ。憎い演出だね。
『バンテージ・ポイント』同様、事件の具体的な理由よりも経過状況を楽しむ作品。
観終わって、ストーリー的には後味悪いけど、素敵な作品を観賞した気持ち良さはあります。
まあ、賛否両論くっきり分かれるだろうね。ベタな映画を求める人にはお勧めしません。


バンテージ・ポイント
約20分間の大統領狙撃事件を、複数の視点で何度も描きます。巻き戻し巻き戻し、状態。
お笑い用語で、同じボケを繰り返すことを“天丼”と言いますが、三度がセオリーです。
本作、ギャグがウケた子供のように、いつまでも続けます(^^;
五度目のリプレイが始まった時、そのしつこさに思わず笑ってしまいました。
でも、“おバカ映画”と早合点するなかれ。実は実は、巧妙な演出作戦なのです。
『メメント』なんかもそうだけど、エピソードを順序立てて構成すれば、
わりとありきたりな話になる内容でも、見せ方の工夫ひとつで大変身するのです。
しかも本作、どこに力を入れるか、の加減具合が新しめ。なぜ事件が起きたか?ではなく、
どのように事件は起きたか?という過程を小出しに描く。点と点が次第に繋がる気持ち良さ。
手に汗握る!って、こういうことなんだねぇ。90分というコンパクトな尺も◎です。


ダージリン急行
A「疎遠だった三兄弟が集まって、列車でインド旅行する話なんですかー?」
B「そんなフォーマットやけど、特にストーリーは無い!と言ってもいい感じやね」
A「会話や画面作り、つまり、シーン・レベルで監督の独特な作風を楽しむ映画?」
B「そうやね。でも全体通して観たら、ココロがほっこりする内容やったりするで」
A「えー!?笑わせるだけ笑わせて、最後は感動的に締めくくる、ありがち系なの?」
B「ウェス・アンダーソン監督やから、そんなベタな着地点やないで。シュールやわ」
A「万人ウケする映画ではなさそうですね。日本で例えるなら山下敦弘とか三木聡?」
B「ううむ、敢えて分かり易く言うたらそうかも知れんけど…。もっとアートっぽい」
A「観る人を選ぶ映画、みたいな?好き嫌いがハッキリ分かれるんでしょうね?」
B「映画を観慣れた、ハイ・センスな人は必見。まあ、そないなとこや。わはははは」


ノーカントリー
これがアカデミー賞を受賞?いや、納得してない訳じゃないんだよ。むしろ嬉しいです。
『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』『バーバー』などなど、コーエン作品は大好きです。
作品賞を獲得したし、東宝系列での公開だから、その影響で沢山の人が観るだろうけど、
こりゃ間違いなく女子供にはウケない。というか、映画を見慣れた通だけが堪能できる作品。
コーエン・テイストを知らない人は、事前に二本くらい観て予習しといた方がいいです。
だって、分かり易い内容じゃないんだよ。誰でもクリアーに捉えられる結末でもない。
大雑把に表面的な見方をすれば“冷酷な殺人場面が印象深い犯罪映画”なんだけど、
実はいろいろ象徴的だったりするんだなぁ。観た人それぞれが考えなさい!ってな感じ。
コーエン作品の中で一番好きか?と問われれば、正直言って、ちょっと首を傾げますが、
でも、やっぱり、センス良いと思っちゃいます。今回は音楽が流れない演出も効果的だしねぇ。


全然大丈夫
日々の生活でものすごく落ち込んでいても、誰かに「全然大丈夫だよ」と励まされ、
本当に“大丈夫”な出来事となり、楽になった…本作を観れば、そんな気持ちになっちゃう。
映画に限らず何でもそうだけど、センスの良い作品に触れると幸せを感じる。
とても嬉しくなる。本作を観れば、ぽっかぽっかな幸せ心地になりますよ。
でも、ベタな“笑い”が好きな人とか、日常の中の些細なユニークが好きな人とか、
人それぞれツボが異なるからなぁ。本作は最大公約数を押さえた作品ではありません。
ギャグ満載のお話ですが、やり過ぎず、やらなさ過ぎず、の絶妙な脱力系テイスト。
荒川良々が主演!てだけで、ゆる〜い内容なのは承知してください。
でいて、切なかったりもするんだ、これが。仕事も夢も恋愛も…ああ切ない。
地味で目立たない作品ですが、意外と秀逸。2008年のマイ・ベストテンに入る気がします。


東京少女
出たぁ、出ましたぁ!BS-iテイスト。いや、丹羽多聞アンドリウ風味(^^;
分かる人にだけ分かる、マニアック色の濃い書き出しですみません。
意外と『ケータイ刑事』や『恋する日曜日』を知らない人が多いですもんねぇ。
やや万人向けのコメントをするならば、“ちょっと巧い”アイドル映画ってこと。
ファンだけが観て楽しいのではなく、一般ウケ可能な“作り”になってるという訳です。
しかし、本作は『イルマーレ』『リメンバー・ミー』『オーロラの彼方へ』の類似品。
類似品にご注意ください。違う時代に暮らす男女が電話で繋がる、というファンタジー。
安っぽいです。誰がどう観ても無理矢理な内容です。でも、でも、でも…
僕は好きなんだなぁ。ストーリーの重要なアイテム・手鏡の下りでは泣いちゃいました。
小中和哉監督も『星空の向こうの国』以来、ずっと好きです。夏帆も好きです。好きの羅列。


潜水服は蝶の夢を見る
マクドナルド商品の中で、僕は“てりやきバーガー”が大のお気に入りなのですが、
あれって日本のオリジナルでしょう?日本マクドナルド、やってくれるじゃないかぁ天晴れ!
という気持ち。本作はそんなイメージです。日本オリジナルって訳ではないよ。
こんな話を映画化するなんて天晴れ!ってこと。だって難しいよ。
雑誌編集長としてバリバリ働いてたジャン=ドミニクという人の実話。彼の自伝が原作。
ある日突然、身体が動かなくなり、周囲の声は聞こえるが話すことができない。
唯一動く左目の瞬きを使って人とコミュニケートし、その言葉を記録してもらい…
という事実を、本作を観て知ることができる。それだけで感動。ココロの栄養満点です。
しかも、彼の視線映像で物語が展開したり、モノローグやコミカルな想像の世界が挿入され、
独特な作品に仕上がっている。監督、脚本家、役者、その他諸々の手腕が発揮された逸品。


マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋
分っかり易く説明するため、確信犯的にデフォルメして言います。
本作、ストーリー不在です。約90分のイメージ・ムービーみたいなものです。
いや、全く話の筋が見当たらない訳ではないんだよ。大冒険的な抑揚が無いってこと。
主人公の女性が自信を持つとか持たないとか、のエピソードはあります。まあ、それだけ。
でも本作の肝心要は“ファンタジーてんこ盛りフェスティバル”なところでしょう。
ぬいぐるみが生き物みたく動いたり、巨大カタログを開くと欲しい玩具が飛び出てくる。
まるでドラえもん四次元ポケットの中に入り込んだような楽しさを満喫できます。
そういった意味では、テーマパークのアトラクション感覚ですねぇ。
これで大ストーリー展開があれば、もっと良かったのになぁ、とか思いますが。
まあ、ナタリー・ポートマンがとってもキュートなので、これでいいです。それが嬉しいです。


アメリカン・ギャングスター
長いっ!上映時間が長いって。二時間半はちょっとつらいかも。
必要最小限の映画観賞充実感はあるので、退屈することはないが、やっぱり長さは苦痛。
デンゼル・ワシントン&ラッセル・クロウというダブル主演が豪華だし、
興味深いトゥルー・ストーリで、画も力強い。だから見応えはあるんだけど、
全編ずっとテンション低め。うっかりすると寝てしまいます。寝不足で観るべからず。
紳士な麻薬王と野蛮な刑事、矛盾した善悪キャラの“妙”がおもしろい…
と、事前に情報をインプットしてたのだが、ありゃりゃ?意外に善悪ハッキリしてます。
町中で急に腹痛、公衆トイレは汚いから嫌だけど、我慢できなくて覚悟して行ったら、
やっぱり汚くて臭かった、そんな気持ちです。ああ、例えがお下劣ですみません。
リドリー・スコット作品いろいろあるけど、僕は『マッチスティック・メン』が好きだなぁ。


陰日向に咲く
原作小説の評判が良い場合、その映画化は期待値のハードルが高い。
映像演出に関する監督の手腕、配役のキャスティング、シナリオの脚色具合…
いろんな要素が相まって、映画作品の善し悪しが決定づけられる。
その日の気温、風の強さ、着メールの数、電車の混み具合…は関係ないです(^^;
劇団ひとりの原作は、ダメ人間を描いた五つの連作短編小説。映画版は二時間一本勝負。
この違いが、脚色と映像演出の見せ所でしょう。「おお、巧い」と思わせるか否か?
確かに本作は巧く作られてると言っていい。別々のエピソードが少しずつ関連して、
映画ならではの群像劇になっている。涙腺を刺激される人も少なくないはず。
ただ敢えて言うと、音楽も含めた演出が、泣かせようとする“いかにも”な演出で、
ちょっと興醒め。“コンパクトで安易な感動”という印象がする映画に仕上がってます。


チーム・バチスタの栄光
推理もの。医療現場が舞台の、犯人は誰だ系ミステリー。シリアス路線かと思いきや、
意外とコミカルな雰囲気が全体を包んでる。その“抜けた感”を醸し出すのが竹内結子。
推理する側の立場、つまり探偵の役割を担う彼女の、キャラクターが何気に良い。
というか、竹内結子が良い。以前は、正直言って興味無かったが、最近は魅力的です。
で、現役医師が書いた原作だけあって、医療現場の描き方に不自然さを感じない。
七人の容疑者も違うタイプで分かり易い。吉川晃司の演技が妙に巧い。
特筆する程の“萎える”演出も見当たらず、楽しく集中して観ることができる。
でも、謎が解明されて、犯人を突き止める意外性は、ちょっと弱い。
二重構造のオチになっているが、最終的にはわりと“普通”です。
まあ、その普通さ加減が逆にリアルだと思えたりします。続編の映画化もあるだろうね。


グミ・チョコレート・パイン
人は二種類のタイプに分けることができる。男性と女性?理系と文系?勝ち組と負け組?
いいえ、そういうことじゃありません。“こういう作品を欲する者か、否か”です。
両者の間には深くて暗い大きな川があり、対岸に渡ることは、ほぼ不可能だと思われます。
僕はと言うと、見事に前者“欲する”側の人種です。これはもう人種問題です(^^;
ウディ・アレン作品にも似た、安っぽいB級感を醸し出すコミカルなケラの演出。
そして内容は、劇的なエピソードがある訳じゃない青春映画。好き嫌いが明確に二分する。
中高生の頃、自分が抱いていた孤独感・疎外感・劣等感をどうすることもできず、
辛い青春の思い出ばかり、という者は、本作の主人公に簡単に感情移入することができる。
で、小さな“救い”に涙してしまう。泣かずにはいられない。うるうる。
山口美甘子、僕らの“救い”です。故に女優・黒川芽以を好きになっちゃいます。銭形泪!


歓喜の歌
本作は落語です。原作である、立川志の輔の新作落語は聞いたことがないので、
映像ならではの脚色ポイントに言及することは控えます。知らないことは書けません。
映画のストーリー的スタイルとしては、『フラガール』『スウィングガールズ』みたいな、
クライマックスの発表会に向けて紆余曲折がある、そんなパターンの内容です。
じゃあ老若男女が楽しめるスタイリッシュな作品か?と問われれば、答は“ノー”です。
昭和テイストの王道で、『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』のノリだったりします。
いや、それが駄目と言ってる訳じゃないんだよ。たまにTVで寅さんシリーズを観ると、
妙にホッとして落ち着いたりするもん。時々、お茶漬けが食べたくなる感覚、みたいな(^^;
本作は細かいエピソードが浅いし、登場人物の感情シフトも巧くないけど、
そんなこと気にせずに“ベタ”に身を任せて、たゆたう観賞が望ましいのです。


ビー・ムービー
CGアニメって、当たりハズレが両極端。大好きなピクサー作品の中でも、
“いまいち”があったりするもん。本作は、ご存じ『シュレック』のドリームワークス製作。
ハチの話って面白そうだから期待してたんだけどなぁ…ああ残念。“暖簾に腕押し”状態。
いや、ハチが人間相手に裁判を起こすって、そのストーリー自体は良いんだよ。
大人だけが楽しめるブラック・ユーモアもあるし、綺麗事だけじゃない部分もちゃんと描かれてる。
でも、脚本のニュアンス、構成が上手くない。“微に入り細に入り”ではない。
まず、登場人物のキャラが際立ってない。皆均一に浅いから、誰にも感情移入できない。
ストーリー展開が早いのは褒めたいところだが、それもスムーズさ加減が足りない。
十時間程の話を無理矢理コラージュして、下手くそに総集編を作った!みたいな印象。
ベタなこと言いますが、『ビー・ムービー』って、B級映画って意味ですかぁ?(^^;


スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
ティム・バートン作品と言えば、風変わりな設定で、デフォルメされたキャラの登場、
ファンタジーでありながら、現実の厳しさ辛さを投影した上品なアナーキー加減が魅力。
簡単に言っちゃえば、ダーク・ファンタジー。本作は復讐心たっぷり殺人鬼のお話だけど、
ミュージカル仕立てで、ニヤリ笑えるコミカルな場面もある。ジョニデが歌い踊ります。
が、しかし、ブラック・ユーモアと称して片付けてしまえない程、
かなり“血みどろ”な作品となっております。スプラッター・ムービーです。
ジョニデのファンだから、『チャーリーとチョコレート工場』が好きだから、と、
そんな単純な理由のみで気軽に観賞すれば、ココロに大火傷を負うので、ご用心ください。
“劣等感てんこ盛り人間の味方”ティム・バートンの映像世界、演出センスは見事で、
他に類を見ない独特なアート作品を1800円で観られる喜びは最高極まりない。