2010年の映画評



人生万歳!
「ご都合主義な展開だよね!」とかツッコミ入れず、ウディ・アレンのセンスに無条件降伏すれば、
観賞後、とてもハッピーな気持ちになり得る作品です。無条件幸福(苦笑)
天才物理学者のおじいさんと、田舎から家出してきた小娘のラブストーリーを軸に、
いつもながらの自虐的なユーモア、皮肉たっぷりの知的で巧妙な会話劇を楽しめる。
主人公がカメラ目線で観客に話し掛けるという演出から始まり、全編通して、
いかにもウディ・アレン!要素てんこ盛り。自らのパロディ映画を撮ったかのようなテイストです。
70年代のお蔵入り脚本をリライトした本作、『アニーホール』や『マンハッタン』の匂いがプンプン。
ハッピーエンドなら何でもありじゃん!という広げた風呂敷のたたみ方が心地好い。
世間一般的に見れば、名作扱いもされない、な〜んてことない作品だろうが、
個人的には、ココロの引き出しにいつまでも大切にしまっておきたい逸品です。


キック・アス
おもしろ〜い!もっと大々的に公開すればいいのにぃ!2011年の正月映画で最優秀作品かも。
貧弱高校生が全身タイツ姿でヒーローごっこする軽妙なコメディ、だと思っていたら大間違い。
どちらかと言うと、『片腕マシンガール』『お姉チャンバラ』『ロボゲイシャ』のような、
主演アイドルに残酷な宿命を背負わせて、次々と悪人を殺める、グロい作品に近い。
本作、かなり血みどろです。11歳の少女が銃をぶっ放し、剣を突き刺す。ヒットガール、最高!
大きな映画会社が出資しない理由がよく分かる。インディペンデント映画だからこそ出来た逸品。
見応えのあるバトルアクションに加え、ストーリーの意外なダーティさもいい感じ。
教育上、道徳的に、こんな暴力描写は宜しくない!なんて野暮な発言はNGです(苦笑)
ニコラス・ケイジ扮するビッグダディの娘役クロエちゃん、ヒーローコスプレがきゃわいい〜!
アクションもほとんど全部、自分でやってるらしい。クロエちゃん、頑張り屋さんだぁ。偉い!


武士の家計簿
本作は、実話を基に作られた時代劇です。原作本もあるが、それは小説ではない。
歴史学者が古文書を紐説き分析した学術書を下敷きにして、映画を仕立て上げた。
ストーリー映画への昇華、という観点では、実に素晴らしいアイデア力。お見事!
加賀藩に仕える御算用者、つまり、経理を担当する武士が主人公。そろばん侍。
時代劇なのにチャンバラが無いのは新鮮だし、微笑ましい家族のエピソードが面白い。
しかし、映画は“間”が大切だったりします。いわゆる、書物で言うところの行間です。
役者の表情や情景で、登場人物のココロ描写をする、趣きたっぷりのシーンが、
本作は若干“間延び”する印象を受ける。無駄なシーンに思えてしまう。それが残念。
切ない笑顔がぴったりの堺雅人は、真面目な下級武士がよく似合い、奥行きのある演技が巧い。
その反面、妻を演じる仲間由紀恵は、いまいち存在感が薄く、必要性に欠ける。


森崎書店の日々
何気な〜い映画。なんなら菊池亜希子を女優として売り出す為のプロモーション映画?
と勘違いしちゃいそうなくらい、何気な〜い話。でも、なんだか良い。良いのだ。
失恋で傷つき、仕事も辞めた女のコが、叔父の古本屋に住み、店番をするようになる。
失恋からの再出発を描きつつ、まるで神保町をPRする映画のようにも見えるが、なんだか良いのだ。
大きなエピソードは無いし、特筆すべき感動する展開も見当たらない。
でも、観終わる頃には、ココロのポケットに“生きる勇気”が、さり気なく入っている。
寒い日に、後ろからそっとカーディガンを着させてくれる、そんな“ほっこり”感がある。
そして、時間を気にせずに、毎日毎日、本を読み耽りたい衝動に駆られる。
映画初主演の菊池亜希子も良い。かつての本上まなみ、市川実日子をイメージしてしまう。
ラストシーンの「自分で価値を作れる人間になりたい」というセリフがとっても印象的です。


マチェーテ
マチェーテ、それは大人の映画。マチェーテ、映画ファンの為の映画。マチェーテ、やればできる(苦笑)
“いい意味でのB級映画”が好きな人、お待たせしましたぁ!集え〜!
2007年にタランティーノとロバート・ロドリゲスが作った“グラインドハウス”スタイル…
つまり、古い映画館のB級映画二本立てをイメージして意図的に撮られた作品、
『デス・プルーフ』と『プラネット・テラー』は最高に馬鹿馬鹿しくて面白かった。
その時に上映された、存在しない映画のフェイク予告編が『マチェーテ』なのです。
ロドリゲス監督、本当に撮っちゃったのね!大人の素敵な遊びゴコロじゃーん!拍手!!
前二作程おんぼろフィルムにはなってないけど、豪華な安っぽさは炸裂ぅ。
しかも、デニーロ、セガール、リンジー・ローハン、ジェシカ・アルバ…圧倒的なキャスト陣。
裏社会の話で、エロくてバイオレンス。お子ちゃまは観ちゃだめよ。ウフ〜ン。


リミット
男が目覚めたら、土の中に埋められた棺桶のような箱の中に閉じこめられていた!
…というワン・シチュエーションのスリラーもの。およそ90分間、箱の中だけの映像。
登場人物は一人だし、ライターの火と、携帯画面からこぼれる明かりのみ。
地味!とことん地味!しかし、それのみで引っ張れるだけの映画としての“巧さ”がある。
観客を飽きさせない、リアリティある脚本。違和感を感じさせない、工夫した撮影方法。
地味ながらも巧妙な作品です。なかなかこんな映画は作れないよ!難しいよ!
なぜ埋められたのか?助かるのか?という謎だらけのフォーマットだが、
第一作目『ソウ』みたいな衝撃的結末を期待してはいけない。そういう内容ではない。
いい映画を観た!という観賞充実感はあるが、ストーリー的には後味が悪い。
サプライズというカテゴリーではなく、むしろ社会派です。身も蓋もないオチ、好きです(苦笑)


裁判長!ここは懲役4年でどうすか
深夜のサンテレビで放送されているイメージが頭に浮かびます。関西ネタですみません(苦笑)
そんな安っぽい作品。裁判傍聴の話で、様々なエピソードをショートコント的に羅列しています。
それ故、主人公を含む登場人物の描き方が御座成り。紆余曲折する大きなストーリーも見当たりません。
でも、僕も裁判所に通った時期がありますが、実際の傍聴はかなり面白いんです!
例えば、弁護人が緊張して言葉を噛みまくってるとか、証人喚問で横柄な態度の関係者とか、
人を見てるだけでも興味深い。下手な役者の裁判シーンを見せられてる錯覚に陥ります。
その面白さを映画で伝えるのは難しい。だって、やっぱり、役者がちゃんと演じる訳ですから。
検察官の冒頭陳述、次回公判日の決め方…裁判傍聴はいろいろ面白いです。
本作を劇場に観に行く時間があるのなら、裁判所へ足を運ばせることの方をお勧めします。
はっきり言うと、好きなバナナマン設楽の初主演映画だから観ただけです。


乱暴と待機
恋をしました。胸がキュン!いつもの風景が違って見えます。とりとめのない高揚感…
彼女の名前は『乱暴と待機』です。恋の相手は映画です。確実に僕の片想い(苦笑)
気に入った映画を“恋愛”に例えるのは、あながち間違いではないんです。
人は恋すると脳内にフェニールエチルアミンが分泌され、気持ちが高揚し、元気になり、幸せを感じる。
この脳内物質は恋愛のみならず、好きな音楽を聴いたり、好きな映画を観ても分泌する。
だから、僕は本作に恋をしました。とっても幸せです。結婚して引退したいくらい(苦笑)
2007年の映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』同様、本谷有希子の舞台劇が原作。
人間の本質的な“愚かさ・醜さ・格好悪さ”をセンス良くコミカルに描いた逸品。
愛、復讐、監禁(軟禁)、セックス、覗き…変態要素てんこ盛りフェスティバル状態。
「永遠の愛は疑ってしまうけど、永遠の憎しみなら信じられる」ってフレーズが胸に沁みる。


REDLINE
タランティーノ『キル・ビル Vol.1』で途中のアニメパートを担当していたり、
石井克人監督作品『PARTY7』のオープニング映像を作った、アニメーター小池健の初長編アニメ。
CG全盛のこの時代に、敢えて手描きアニメーションにこだわった、独特の雰囲気がある。
劇画をコミカルタッチにデフォルメしたような、アメコミの世界観にも似た作風。
アニメ画としての面白さはあるが、残念ながらストーリーはつまらない。
架空の未来、宇宙も巻き込んでのカーレースが題材だが、話に奥行きが見当たらない。
なので、上映時間百分が物凄く長尺に感じ、観ていてしんどい。退屈感が否めない。
こういうタイプのアニメ作品は、一般ウケしなくても、一部のマニアには絶賛されるのが常。
しかし、一般とマニア、どちらにも程よくウケようと試みて、
結局、両者に見向きもされない。そんな印象を受けます。声優に木村拓哉を起用してるあたりが興醒め。


ミックマック
『アメリ』『ロスト・チルドレン』『デリカテッセン』のジャン=ピエール・ジュネ監督、
およそ五年ぶりの新作は“イタズラ”を意味する『ミックマック』というタイトル。仏映画。
本作もジュネ独特の世界観と色彩で構成されており、シュールでブラックなユーモアが満載。
ほっこりとした幸せな気持ちになれる小粋な作品に仕上がっている。
『アメリ』で主人公が偉そうな食料品店の店主宅に忍び込む場面を覚えていますか?
歯磨き粉と足用クリームを置き替えたり、目覚まし時計や電話機の設定を変えたり…
そんなイタズラの規模をもう少し大きくしたのが『ミックマック』です。
不運な男:バジルと可笑しな仲間が兵器製造会社にイタズラを仕掛けます。
戦場を露骨に描いた反戦映画よりも、本作みたいに平和を唱えた作品の方が好きです。
ああ、久しぶりに『アメリ』を観たくなりました。今から観ようと思います。


ナイト&デイ
キャー!トム・クルーズとキャメロン・ディアスが『バニラ・スカイ』以来の共演よぉ!
しかもアクション・コメディで、ロマンス的な展開もあるのぉ?ステキ!ワー!キャー!
…と、脳内にドーパミンを放出しまくって、興奮度マックス状態になり、
正しい判断力を麻痺させてから、本作をご観賞頂くことをお勧めいたします。
さもなければ、ストーリーに捻りがなくてつまらない!とか、間延びする展開が退屈!とか、
アクションシーンは新鮮味を感じなくていまいち!と思ってしまうので、ご注意ください。
48歳と38歳の中年男女が恋に落ちるアクション映画なんて痛々しくて観てらんねーよ!
という的確な見解だけはくれぐれもしないようお願いします。元も子もありません。
大きなスクリーンでスターを観る!それだけを目的に掲げ、劇場へ足を運びましょう。
味はともかく、キャビアと国産松茸を一緒くたに食するイメージです(苦笑)


悪人
橋が無い大きな川を隔て、女性とその恋人が居る。女性は恋人に会いたいので、舟を持つ男性に頼む。
金銭を要求され、無一文の女性は諦める。舟を持つ別の男性に頼むが、性行為を求められる。
女性は応じて川を渡るが、事情を知った恋人は怒り、女性と別れる。そして別の男性が現れる。
男性は事の一部始終を理解し、悲しむ女性を慰め、二人は一緒に暮らし始める。
「五人の中で悪いのは誰?」という、十数年も前に流行ったゲーム感覚の心理テストです。
小品だが、人間の弱さ・脆さ、それ故の愚行が端的に描かれています。
映画『悪人』を観ていて、この心理テストを思い出した。共通する“本質”があります。
我々は自分を正当化したがる。だからどんな状況でも「悪くない」と思いがち。
でも、加害者・被害者・その家族…今すぐどの立場にもなり得る可能性があります。
“自分の判断はそんなに正しい訳ではない”と常に思うべきでしょう。「悪いのは誰?」


BECK
ロックバンドのお話をメインに据えた映画、今までも幾つかありました。
例えば『ソラニン』『少年メリケンサック』、ちょっと趣きは違うが『フィッシュストーリー』など。
こういうタイプの映画、豪華キャストで面白いストーリーだとしても、
必ず“腑に落ちない”感が否めない。行き場のないモヤモヤとした気持ち…それは音楽です。
劇中でバンドが奏でる楽曲が納得できない。原作の小説や漫画なら実際の音が聞こえてこないので、
架空BGMとして説得力あるが、実写映画化されると具体的な音が実演されてしまう。
この点に関して、本作は目からウロコの素晴らしい演出で見せてくれる。
アイデアを思いついたとしても、映画として通用するか?と迷いそうなものだが、
堤幸彦監督は躊躇なく披露して、センス良い作品として成立させた。お見事!
本作の特筆すべき曇りなきポイントは、この一点に尽きる。これでいいのだ(苦笑)


Colorful[カラフル]
亡くなった“ぼく”という主人公が、生前に犯した罪を思い出す為、現世に戻り人間をやり直す。
自殺した中学生の身体を借りて。「そして、ぼくはコバヤシマコトになった」と始まる物語…
入口は正真正銘のファンタジーだが、内容はより現実的。厳しい現実。
いじめ、援助交際、家庭崩壊、自殺…生きる上で無視できない命題が描かれる。
アニメなのに、ずっしり重たい。でもアニメだからこその、良い意味で曖昧な“感情移入”度合いが心地いい。
実写映画なら知ってる俳優の演技を観て興醒めする場合がある。アニメ、正解。
「この映画は全ての人が観るべきだ」と、押しつけがましい願望を初めて抱きました。
本作を嫌う人もいるだろうが、この映画を必要とし、確実に“救われる”人はいる。
あなたの人生を大きく変える作品かも知れない。だから必ず観てほしい。
共通項が多い、1946年のアメリカ映画『素晴らしき哉、人生』もお薦め作品として挙げておきます。


NECK[ネック]
数多の映画を観てるから、事前に匂いを嗅ぎ分ける“ココロのモノサシ”には自信がある。
にも関わらず、本作を「今夏の意外な大穴かも」と期待していた自分が悔しい(苦笑)
この映画なんですか?どういうこと?何がしたいの?はぁ〜ん?どうすればいいの?
余裕で及第点に達していない映画を久々に観てしまいました。コウカイサキニタタズ。
B級映画は好きです。例えばタランティーノみたく、意図的にB級を公言する作品は面白い。
しかし本作は、お洒落でポップでキャッチーなホラー・コメディを作ろうとして、
結果的に中途半端な下級ランクに成り下がってしまった印象が否めない。ただただ、安っぽい。
バカバカしい作品にするなら、もっと徹底的に“おバカ”を貫いてほしい。
お化け製造マシーン!というアイテムは新鮮だし、相武紗季のコメディエンヌっぷりも良いのに…
嗚呼、もったいない。身も蓋もない言い方ですが“くだらない映画”です。


さんかく
ダメだなぁ。本当、ダメだぁ。…本作の出来栄えがダメなんじゃないよ。
登場人物三名のことです。…役者がダメなんじゃないよ。お話の中のキャラクターのことです。
…キャラの描き方が下手なんじゃないよ。むしろ絶妙。容易くストーリーに感情移入してしまい、
バカな男、いや、人間のバカさ加減に涙してしまう。ああ、胸が痛い。切ない。
同棲中カップルの元に彼女の妹がやって来て、夏休みだけの共同生活が始まる。
30歳の彼氏は、15歳の妹に惹かれてくんだなぁ。男はバカ!みんなバカ!愛しいバカ!(苦笑)
“恋愛ど真ん中”の物語は苦手なんだけど、例外的に本作は気に入りました。
気まぐれな妹を演じている小野恵令奈がすごく良い。羊毛とおはなの主題歌も素敵です。
『机のなかみ』『純喫茶磯辺』、そして本作と…吉田恵輔監督は女子学生がお好き?
うんうん、いい意味で共感します。だから吉田監督の作品は好きです。いい意味でね(苦笑)


ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い
結婚式を目前に控えた新郎と、その男友達が集まってドンチャン騒ぎ。
独身最後の夜を遊びまくるぞー!とパーティが始まる。次の瞬間、映画は翌朝のシーンとなる。
極限の二日酔い状態。誰も昨夜の記憶が無い。鶏が部屋を歩き回り、クローゼットの中に赤ん坊、
バスルームにはトラが居る。そして新郎が行方不明!一体、何があったんだ?
若干の手掛かりを元に、あちらこちら新郎を探しつつ、昨夜の出来事が芋づる式に明るみになる。
あり得ないほど羽目を外した男たちのトラブル話が面白くない訳がない。
低予算で撮られたコメディだが、ゴールデングローブを受賞しただけあって、実に出来が良い。
アメリカ映画の“勢い”だけのユーモアではなく、起承転結の巧妙な構成によって作り出される笑い。
エンドロールまで、きっちり笑わせてくれます。意外な掘り出しモノ!的な佳作です。
ただし、三谷幸喜コメディほどの繊細さと緻密さはないので、そこまでの期待はしないでください。


ソルト
本作、平たく例えるならば、マット・デイモン『ボーン…』シリーズのアンジー版です。
アクション満載のスパイ映画。どんな話?と興味津々のあなたへ、端的にご説明いたします。
諜報員ソルトは二重スパイなの?いや、そんなことはないでしょう。あ、逃げちゃった。
やっぱり二重スパイ!ん?何か理由あるの?二重スパイ?違うの?…という話です(苦笑)
こういうフォーマットは緻密な構成が必須で、脚本の執筆が非常に難しい。
しかし、トリック気味ストーリーの映画が数多く発表されている昨今、
脚本や映像化の難しさが、改めて高い評価を受けにくい。そういった意味で、
観客もそんじょそこらの“ひねり”では驚かない。本作もそんな境遇だと言えるでしょう。
見応えがあって面白いし、鑑賞充実感も得られる。誰が観ても無難に楽しめるが、
ココロのマイベストテンに入ることはないし、ひと月も経てば内容を忘れてしまうような作品。


インセプション
記憶を10分間しか保てない男が主人公の映画『メメント』、時間軸を逆に展開して見せることで、
観客が追体験できるような、斬新な演出になっていた。2001年に日本公開された傑作。
その監督、クリストファー・ノーランの新作は、他人の頭ん中でアイデアを盗み出す話。
面白くない訳がない。眠らせて潜在意識に侵入して泥棒する“画期的なルパン三世”だ。
催眠術とはちと違う。自分の意識が相手の意識の中で傍若無人に動き回る、複雑な内容。
ストーリーそのものは単純だが、多重構造になっている為、油断すると理解の外に放り出される。
夢の中の夢の中の夢の中の夢…と場面設定がどんどん移り変わる。
そして“粋”と“馬鹿馬鹿しい”が紙一重のラストカットで、きっと笑ってしまう(苦笑)
ディカプリオの抑えた演技が“普通”で好感を持てるし、渡辺謙が準主役級なのは嬉しい。
「あたすぃ、難しい映画はちょ〜苦手!」という方は観るべきではありません。


トイ・ストーリー3
遊園地を貸切で一日中ずっと遊びまくり、ジェットコースター何十回も乗り続けました!
みたいな興奮度マックスの面白い映画です。楽しくて楽しくて、逆に疲れちゃうくらい。
エンタテイメントの海で溺れるぅ。でも大丈夫。ウッディとバズが助けてくれます(苦笑)
とにかく、面白いったらありゃしない。見せ場、見せ場のフェスティバル&カーニバル!
アクションシーンに興奮し、次の瞬間、更にテンション上回る展開に魅せられる。
西部劇、SF、大脱走、絶体絶命のピ〜ンチ…マトリョーシカ状態で娯楽が詰め込まれてます。
前作、前々作より遥かにパワーアップしたスペクタクル巨編。そして小粋なユーモアに笑い、
切ないストーリーにうるっと感動。喜怒哀楽、全ての感情が心地よく刺激されます。
とりあえず作っちゃえば儲かる的な安易な続編ではない。丁寧に練り上げられた脚本が素晴らしい。
ピクサー作品にハズレなし!ほぼ満点の高評価を捧げます。とっても幸せ。


借りぐらしのアリエッティ
映画の善し悪しをディナーに例えるならば…と言っても、作品によっては、
小腹を満たすだけのスナック菓子だったり、手軽で無難なハンバーガーだったりもする。
愛情たっぷり、美味しいフルコースディナーの様な映画に出会うことは、年間に数回。
さて、本作はと言うと、フルコースの“前菜”です。でも、もちろん不味くはない。
例えの通り、連続TVアニメの一話から四話までを、まとめて観ました!という印象。
大盛り上がりすることなく、中くらいの見せ場が三、四回。そして、まだまだ話は続く感じ。
小さな小さな人間の目線から見た世界。優しい少年と恐い婆さん。
生きていく厳しさ、そして勇気。ジブリ的なセオリーをきっちり押さえた内容です。
お皿も綺麗だし、盛り付けも上手い、味付けはやや薄めだけど美味しい。でも、“前菜”風。
メインディッシュ感を求めてしまうと、物足りない気持ちになります。


踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!
初めての店で知らない料理を食べる時、未知の楽しみがある。そんな観点で本作を例えるなら、
食べ慣れた、見知った味の料理。大きくズレることのない期待感を満たす為、周知の味覚を確認する。
博打的な冒険風情が乏しくても、面白いならいいじゃーん!と豪語したい。
しかし、そう簡単な映画評では済まされない。だって、つまらな〜い作品だから(苦笑)
“踊る”に緻密な犯罪劇を求めたりはしないが、にしても、数多の事件内容があまりにもお粗末。
セールスポイントであるはずの、警察内部の改革や登場人物の熱い想いも、今回はやや希薄。
大ヒット確実ラインを狙って作られた映画だから、総力を注ぎ込んでいるはずなのに、
大筋も小ネタも薄っぺらい。何か別の仕事の片手間に書いた?と疑いたくなるような脚本。
新しいキャストが多過ぎるのも難点で、“踊る”とは別のドラマみたいな印象すら感じる。
何をやっても大喜びする“踊る”ファン感謝祭でだけ上映すればいいんじゃないの?


9 〜9番目の奇妙な人形〜
元々は新人監督シェーン・アッカーが作った11分程の短編アニメ。
ティム・バートンが「これまでの人生で見た映像の中で、最高の11分間だった」と称賛し、
自らプロデューサーとなり、長編映画化された。しかも、趣きはダーク・ファン タジー。
麻布製の人形が目を覚ますと、世界は廃墟と化していた…冒頭から惹かれるストーリー。
次々と麻人形の仲間が現われ、軍事用ロボットとのバトルが繰り広げられる。面白い!
面白い!と、ひと言で済ませたいところだが、な〜んだか物足りない。煮え切らない満足感。
例えるなら、十数種類のスパイスをブレンドして仕上げたカレー、
決して不味くはないが、ターメリックを混ぜ忘れてます、みたいなニュアンス(苦笑)
独特の世界観が魅力的だし、見せ場としてのアクションシーンも大いに盛り上がる。
だけど、優等生っぽい物語の抑揚、セオリー通りの構成が、やや興醒め。長編化は無理があった!?


告白
娘を殺された女性教師、生徒、加害者家族…数名が章ごとに独白する形式の原作小説。
犯人探しが目当てのミステリーではない。敢えて言うなら、登場人物のココロを探るミステリー。
原作ありき、の映画化は難しい。作品の良さを台無しにする場合も多々ある。原作未満。
しかし、中島哲也監督の脚色は実に巧い。元のテイストを損なわない付加演出。素晴らしい!
効果的に取り入れた新たなツール、小説とは違う物語の運ばせ方、
映画的に流れの良い構成。サントラの選曲。…原作以上の映画、と言っていいだろう。
文字の羅列なら原稿用紙一枚費やさなければならないことを、数秒の画で魅せる。
テンポが良く、映像は衝撃的で、小説よりも強烈。かなり“重たい”作品なので覚悟して観賞ください。
パク・チャヌク復讐三部作や、園子温『愛のむきだし』が苦手な人は観ない方がいいでしょう。
こういう映画がミニシアターではなく、東宝系で大々的に公開していることが嬉しい。


シーサイドモーテル
タランティーノ作品の足下にも及びませんが、敢えて言うなら、日本版『フォー・ルームス』です。
セールスマンの兄ちゃんとコールガール、借金取りから逃げる若いカップル、
激安スーパーの社長夫婦、キャバ嬢と客…シーサイドモーテル各室のエピソード四つ。
“騙す・騙される”をキーワードに、それらの話が少しずつ絡み合って結末へ向かう。
入り組んだストーリーを考えるのは大変だ。そういった意味では労をねぎらいます。
しかし、今時、こんなくらいのアイデアで映画を作るかぁ?という疑念が拭い切れない。
目からウロコ的な斬新さが見当たらない構成。映像演出も何気にベタ。
10年前なら、まあまあ驚いただろうけど…といった感じの、POPだけど薄っぺらい作品。
“面白い”ではなく、“楽しい”バラエティ番組をテレビで観るような印象に近い。
良い意味でも悪い意味でも“普通”な映画です。キャスト陣は無駄に豪華です(苦笑)


パーマネント野ばら
サイバラ漫画を読んだことがありません。しかし、映画化された『いけちゃんとぼく』、
そして本作を観て、口幅ったいですが、「西原理恵子、面白いなぁ」と思っています。
本作のストーリーには叙述トリックが使われています。それが“売り”の映画ではないが、
とても大事なポイントです。その仕掛けがあるか否かで、作品の印象が違ってきます。
海辺の田舎町に住む人々の、人生や人間模様が楽しくて、切なくて、笑っちゃいます。
「この町にまともな人はいない、残りカスばかり」みたいなことを主人公なおこが言うが、
その彼女も実は…という結末で、本作がより一層、切なくなります。
仕事で疲れた日の夜に、珈琲を飲みながら、まったりと観賞したい、そんな佳作。
監督は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』の吉田大八。
脚本は『サマーウォーズ』の奥寺佐渡子。面白いものになるべく、エリートな映画です。


運命のボタン
運命のボタン…あなたの家にボタン装置が届きます。ボタンを押すと一億円が貰えます。
代わりに、見知らぬ誰かが死にます。さあ、あなたはボタンを押す?押さない?
運命のボタン…あなたは、この物語の結末を知りたくなります。観れば、謎は解けます。
代わりに、鑑賞料金と時間を無駄にします。さあ、あなたは本作を観る?観ない?
欲望を満たすか、それともモラルを重んじるか?自分の選択に責任を持てるのか?
そんな命題を提議して、強欲で利己的な人間の愚かな様をテーマに据えているのは共感できる。
欠点はフォーマット。「今時、懲りずにまたそのオチかぁ!?」と嘆きたくなる、どんでん返し。
幾つかの伏線も決して巧妙とは言えない。ただ乱暴に散らかしただけ、の印象が否めません。
短編小説を無理に長編映画化したせいか、テンポが悪く、冗長で退屈。
嗚呼、私は『運命のボタン』を押してしま、いや、観てしまった(苦笑)


カケラ
満島ひかりと衝撃的な出会いをしたのは映画『愛のむきだし』だった。
作品の内容に驚き、彼女の存在感・演技に魅了された。興味が湧き、調べてみると、
90年代後半に活躍したFolderの元メンバーだということが判った。
女優として活動を再開し、我々が容易く知ることのできるポジションに昇ってくるまで、
「大変だっただろうなぁ」と慮ると、とても切ない思いになり、愛しくなる。
さらに『クヒオ大佐』『川の底からこんにちは』を観て、僕は確実に彼女のファンになった。
アイドルだった彼女が、今もまだ20代前半にも関わらず、コミカルな演技から汚れ役まで熟す。
カメラ目線で間の抜けた表情を見せる、それだけでユーモアがあり、絵になる。
満島ひかり出演作の監督はそれぞれ違うが、不思議と満島ひかり色がある。ハズレがない。
本作も然り、緩いタッチで人間の本質を鋭く描く逸品。女子に恋する女子の話です。


君と歩こう ( 2009年に執筆 / 再up )
東京国際映画祭、数日間のラインナップから観たい作品を選んだ訳ではなく、
この日、この時間しか、自分の予定が空いてない…という理由で、予備知識も乏しく、本作を観賞。
偶然は必然!そんな絵空事を叫びたくなるくらい、この映画と出会えて嬉しい!幸せ!
人生の楽しみが、ひとつ増えました。“石井裕也監督作品を観る”楽しみ。
本作は、田舎の女教師と生徒が駈け落ちする、という話で、これ以上のストーリー説明は不要。
馬鹿馬鹿しくもシュールで小粋な会話を楽しめる秀作です。どの場面も、いちいち面白い。
登場人物の言動、そしてその元となる彼らの発想が可笑しい。ずっとクスクス笑えます。
低予算の製作費、たった二週間の撮影期間でも、こんな素晴らしい映画が出来上がる!
人間の愚かな部分、醜いところに焦点を当て、人生の機微をコミカルに描く。且つ、切ない。
そんな、臭いモノに蓋をしない、石井監督の作風が大好きです。スタンディングオベーション!


川の底からこんにちは ( 2009年に執筆 / 再up )
大福は甘い。梅干しは酸っぱい。当たり前のこと。歌詞、絵画、映画、その他もろもろ、
楽しいことを明るく描いたり、辛いことを暗く描くのは、あまりにも普通です。平凡。
しかし、陰と陽で言うならば、人間の、人生の、陰の部分をコミカルに描く石井裕也監督。
実は人間の陰はそのままで充分にコミカルなんです。その“可笑しさ”を確実に捉え、
きっちり映画に昇華させる、ハイセンスな石井裕也の作品は非凡です。大好き。
個人的なことだが、東京国際映画祭で『君と歩こう』を観て、石井作品は“ご馳走”だと気付き、
そして運命に導かれるかのように、立て続けに本作と出会いました。嬉しい限り。
「私、中の下くらいの女なんです…」と言う主人公。ネガティブゆえのがむしゃらなポジティブが面白い。
台詞がいちいち笑える。だから全ての場面が笑える。満島ひかりは今一番注目すべき女優です!
今回はPFFでの上映だったが、こういう作品が劇場にて一般公開されることを切に願う。


春との旅
小説で行間を読むような、直接は詳しく書いてない部分が大切!みたいなことってありますが、
本作は行間たっぷり!行間を感じ取り、作品の味わいを堪能する映画です。
失業してしまった孫娘・春と二人暮らしのお祖父さん。ある日、お祖父さんは旅に出る。
いつまでも孫の世話になれない…、自分の面倒を見てくれる親族を訪ね歩く。春も着いていく。
疎遠な兄、大好きな姉、気が合う弟、仲が悪い弟…みんな高齢者。
しかも、それぞれ家庭の事情があり…。人を想う、罪について、社会・家族・個人など、
いろんな命題が盛り込まれつつ、“生きる”という大前提を考えさせられる映画です。
“生きる=食べる”を象徴するかのように、食事の場面が多いのが印象的です。
どんなに辛い状況でも、食べることは避けられない。二人が食べるシーンは切なく見えます。
仲代達也、大滝秀治、淡島千景…大御所の演技は見応えありまくりです。柄本明も素晴らしい。


月に囚われた男
トム・ハンクスの独演会みたいな『キャスト・アウェイ』という映画がありましたが、
本作は、まるでサム・ロックウェルのSFワンマンショーです(苦笑)
新しいエネルギー源がある月の裏側で、三年間ひとりぽっちで働く主人公。
愛する妻子からのビデオレターだけを気力の糧にして、採掘基地で人工知能メカと暮らしている。
任期終了間近のある日、何者かが基地に現われ…。ある意味、密室劇で一人芝居の本作、
一見すると地味な印象の作品だが、叙述トリックの仕掛け方が巧妙で、粋な秀作。
“○○○○”というキーワードを明記すると、ネタバレになるので書かないが、
近い未来、起こり得る可能性のある、難しいテーマを題材にしています。
オチは宇宙人!みたいな安っぽいB級ムービーではないので御安心ください。
低予算でも、アイデアや脚本が良いと、こんなに面白い作品が仕上がるんです!


劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル
例えば、見たことも聞いたこともない民族料理、美味しいか否か、食べてみないと分からない。
味が想像できません。でも、吉野家の牛丼、マクドナルド、あるいはチキンラーメン…など、
ネーミングを見るだけで、確実に味が思い出せる、定番フードがあります。
本作は後者です。おもしろさの加減が、寸分の狂いもなく想像可能。想定範囲内です。
テレビシリーズの『トリック』、それ以下でもなければ、それ以上でもありません。
無難。安全パイ。周知の事実。逆に言えば、無鉄砲で斬新なおもしろさは期待できない。
未開の地から金塊を探り当てるような、未知の楽しみはありません。非冒険的な映画。
まあ、劇場版だからつって、必要以上に豪華な演出をして、興醒めのパターンも多い中、
本作は、妙な気負いがない分、良いでしょう。相変わらず小ネタ満載で、
テレビシリーズを観てないと気付かない“笑い”も多い。ファンサービス作品です。


アリス・イン・ワンダーランド
[建前編] ティム・バートンが作り出す魅力的なキャラクター、彼の唯一無二の世界観、
それが3D化されると娯楽性が増量。不思議の国でアリスと共に冒険している錯覚に陥る。
人生の選択、勇気ある決断、周囲に合わせること…アリスが大人へと成長する物語を軸に、
老若男女が楽しめる、分かり易いシンプルなストーリーに仕上がっている。
ヘレナ演じる赤の女王のデフォルメ加減は最高で、笑えます。ティム・バートン、万歳!
[本音編] 本当に撮りたかった作品なんですか?ココロに何にも届かない味気ないお話。
ティム・バートン、どうしたんですか?箱の外見だけ派手で豪華な装飾だが、中身が空っぽのプレゼントみたい。
こんな最大公約数的な映画を作っちゃって、ティム・バートンのファンはがっかりします。
「私は頭が変なの?」と聞くアリスに「優れた人はみんな変なんだ」と答える父親の台詞のみ、
いかにもティム・バートンらしい!ので好きです。それだけ、それだけ。


息もできない
罵る、殴る、蹴る。容赦なく暴力を振るう借金の取立て屋。非情なチンピラが主人公。
ワルが主役の物語、僕は苦手です。特に野蛮なだけの映画は観てられません。
しかし本作は、そんな単純なカテゴリーに分類される作品ではありません。
偶然出会ったチンピラと女子高生。それぞれの生活を軸にストーリーは展開される。
だからと言って、二人の薄っぺらい純愛ラプソディではない。ましてやエロ映画でもない。
多くを語らずとも、二人は惹かれ合い、互いの存在が唯一の“救い”となる。
二人とも、ココロは傷だらけ。切ない、辛い、苦しい。胸が痛い。
家を売って映画の製作費を作ったという、監督・脚本・主演のヤン・イクチュンは逸材で、
まるで記録映画かのように生々しく熱演している。ヒロインのキム・コッピも巧い、素晴らしい。
孤独な主人公の物語、あるいは、孤独な人が作った作品が僕は大好きだ。だから僕は本作が好きです。


第9地区
多種多様のスナック菓子が出尽くしているから、全く新しい製品など、もう産まれない!
そう思っていたら、見たこともないお菓子が発売された。味わったことのない新触感だ!
チョコ?グミ?キャラメル?クッキー?ポテトチップス?あるいはハンバーガー?ご飯?
三時のおやつにも最適だし、夕食としても充分。おつまみにもなる。これは一体何だぁ?
…本作が、まるでそんな新しいお菓子のような映画です。あらゆるジャンルがてんこ盛り。
SFであり、アクション映画であり、家族愛も友情も描き、さらにユーモアがある。しっかり社会風刺色も濃い。
ありえないストーリー設定を疑似ドキュメンタリーで魅せる。もし実際に起きたら、
人間社会はこうなるであろう、という説得力に満ち溢れている。久々に先読みできない秀作。
南アフリカ上空に巨大宇宙船が停滞、数多のエイリアンを難民扱いして隔離、迫害する…
馬鹿なB級映画だと思ったら大間違い。斬新な作品で、ド肝を抜かれる!アイデアの完全勝利。


半分の月がのぼる空
10代の純愛を題材にした作品がオンパレード状態の昨今。もう、うんざりです。
ラブストーリーのみをメインに据えた映画は勘弁してくれー!な僕ですが、
『世界の中心で、愛をさけぶ』以来、久しぶりに号泣してしまいました。お恥ずかしい(苦笑)
高校生の裕一、難病の里香、そして医師の夏目、それぞれの物語が展開されて…。
そんじょそこらの少年少女純愛ムービーは、奥行きが無くて上っ面だけだが、
本作は、ストーリーの設定も背景も、登場人物の心情も、とても丁寧に繊細に描いている。
何より高く評価したいのは西田征史の脚本で、映画ならではの“仕掛け”を作っている。
『世界の中心で…』同様、この“原作+α”の発想で、映画が原作以上のものとなる。
ストーリーで切なくなり、“仕掛け”で驚き、そして涙が止まらない。よく出来た逸品。
すっぴんで好演の忽那汐里が良い!シリアスな大泉洋が良い!阿部真央の主題歌が良い!


シャッターアイランド
“謎を解くため、登場人物の表情や目線、手の動きを注意深く見てください”
という名目で、字幕を読むよりも[超吹替版]の鑑賞を推奨している本作。
確かに、謎解きヒントは幾つかあるが、字幕も吹替も、鋭い人は気づくし、鈍感なら気づかない。
しかも、結末の“どんでん返し”は映画通なら驚かない程度のもの。
だから、そこに執着せず観賞した方がいいでしょう。それでも充分に見応えはあります。
トリックのオチだけを期待すれば、ただ単純に、つまらない映画になるかも知れません。
本作の重要なポイントは、真相が全て明らかになった後の、数分のラストシーン。
本当の意味での結末を知ると、とても悲しい作品に思えてきます。
もう一度、最初から観直したくなるタイプの映画。ディカプリオも好演。
ちなみに、心地よく映画に騙される!に関しては、邦画『アフタースクール』がお薦めです。


マイレージ、マイライフ
例えば、油っぽくて濃い味付けの料理なら、消費者の好みは明確に分かれるだろう。
だけど、あっさり薄味なのに、善し悪しの判断がはっきり格別化される料理…それが本作。
経営者に代わってリストラ宣告をする仕事。忙しくて世界中を飛び回る。
人と深く関わることをシャトアウト。マイレージを貯めることが生きがい。そんな男が主人公。
ジェイソン・ライトマン監督は、「人はひとりで生きてゆけない、家族を大切にしよう」
とかは主張しない。どんな生き方も、あらゆる人生の選択肢も、極端な否定も肯定もせず描く。
いい意味でニュートラルな作風、軽妙なタッチが、とても小気味良い。
逆に言うと、右耳から左耳へ抜けて行くような、物足りない印象でもあります。
一見、日本映画かなぁと思うくらい地味な作品だが、いかにも現代風な内容がなかなか面白い。
ジョージ・クルーニーはいつも美味しい映画ばかり出てますねぇ。


ソラニン
♪ニンニン、ソラニン、ソラニンニン、ソ〜ラニンニン。これでいいのだぁ!(苦笑)
と替え歌を唄いたくなりますが、『ソラニン』実写版は本当に、これでいいのかぁ!?
[原作漫画=絵コンテ]かのように、画角も台詞もかなり忠実に再現しています。
登場人物も気持ち悪いくらい見た目が似てます。実写映画化において慎ましい努力ですね。
ここまでしてるにも関わらず、原作の世界観を巧く描き切れてない。これでいいのかぁ!?
原作に敬意を払うのは大切なことですが、本作は顔色を窺いつつ媚びてる!印象です。
だったら、いっそのこと、映画的トリックを仕掛けた“原作+α”な脚本にして欲しかった。
漫画では聞こえてこなかった楽曲「ソラニン」も、形にして提示されると興醒め。
浅野いにおはシュールでセンスの良い漫画家、原作も切なくて好き。
だけど本作は、ありふれた青春映画に成り下がってる感じが否めません。残念。


ウディ・アレンの夢と犯罪
2007年の作品がようやく日本でも公開。現在74歳のウディ・アレンは監督デビュー以来、
ほぼ年に一本のペースで映画を撮り続けている。製作順に日本公開されないことも多い。
日常のどんな題材も、些細なエピソードも、ウディ・アレンの手に掛かれば、
喜劇に仕上げるも悲劇に仕上げるも、自由自在。料理なら何でも作れるシェフみたいだ。
例えば2004年の作品『メリンダとメリンダ』は、ひとつの出来事を始点にして、
[喜劇]編と[悲劇]編の二本立てで構成する内容になっている。ぜひ観てほしい逸品。
本作はがっつり悲劇。金持ち願望の兄と大きな借金を抱えた弟が転落していく話。
登場人物に感情移入する余地を作らず、物語はただ淡々と進んでいく。
常に“人間の愚かさ”を描き続けるアレン。作風に関しての好みは明確に二分するが、
「表面的に楽しい瞬間はあっても、現実は本質的に悲劇」と語るアレンが僕は大好きだ。


NINE
音楽も映画も、カバーやリメイクするには意味がある。それなりの必然や理由がある。
でも結局、薬局、特許許可局、出来上がった作品が面白いか否か!?が大事なポイントでしょう。
1960年代の名作、フェリーニの映画『8 1/2』が後にミュージカル化され、高い評価を受けた。
その舞台作品を更に映画として再構築したのがロブ・マーシャル監督の本作。
果物をジュースにして、その搾り汁を集めてまた果肉を作りました、みたいな濃縮還元映画(苦笑)
現実と幻想が入り交じった、とある映画監督の苦悩を描いたストーリーフォーマットは、
現代版映像作品として蘇らせると意外に地味。“?”の観客も多いだろう。
陰と陽のめりはりで、ミュージカルシーンの派手さが効果的な抑揚なのかも知れないが、
少なくともロブ・マーシャルの前作『シカゴ』ほど面白いとは思えない。ちょっと残念。
とにかくキャスト陣が豪華過ぎるくらい豪華なので、お祭り感覚で楽しむ映画です。


フィリップ、きみを愛してる!
♪ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲイ〜。ゲイが主人公の“愛と脱獄”の物語。
ゲイのラブライフにはお金が掛かる!ってことで、あの手この手の詐欺行為で金儲け。
で、逮捕。愛しの彼氏に会いたいから、あの手この手で脱獄行為を繰り返す。
詐欺師に復活。逮捕。脱獄。詐欺。逮捕。脱獄…フィリップ、きみを愛してる!(苦笑)
ジム・キャリーはどの映画でも“ジム・キャリー”にしか見えない存在ですが、
ユアン・マクレガーとゲイカップル!ってだけで本作は観る価値あり。しかもユアンが可愛いんだ。
愛する人を想う、献身的でピュアな場面は思わず泣けちゃうけど、同時に笑えるポイント。
詐欺と脱獄の手口も見応えあるところで、意外とサラッと描いてますが、
犯罪コメディ映画としてもっと詳細に見せてほしいくらいの巧妙さです。
IQ169で懲役167年を食らったスティーブン・ラッセルの実話!すごいよねぇ。


時をかける少女 (2010)
原田知世、南野陽子、内田有紀など、様々なヒロインで何度も映像化された『時かけ』。
2006年の細田守監督アニメは筒井康隆小説の原型を留めていないほど進化していました。
本作、正確にタイトル付けするならば『続・時をかける少女』でしょう(苦笑)
1983年の大林宣彦監督作品を真正面から堂々とリスペクトして、その38年後を描いた話。
原作をアレンジしまくり。完全にアラフォー世代へのファンサービス映画です。
公開当時、学芸会ノリの演技で話題だった大林版を先に観賞することをお薦めします。
意図的なのか失敗なのか、善くも悪くも、古風な映像演出に若干の違和感はありますが、
素直に感情移入すれば、切なくて泣けます。胸キュン、うるうる。
兎にも角にも、仲里依紗がキュート!チャーミング!これから確実に大活躍する女優さんです。
本作で仲里依紗ファンになった人は『純喫茶磯辺』や『非女子図鑑』を観賞しましょう。


渇き
超善人な神父。伝染病や輸血のせいで吸血鬼の症状が現われる。夜な夜な血を吸いたくなる。
モラルと欲望、善と悪の葛藤に悩む。そして人妻を好きになる。…そんな映画。
ストーリーのフォーマットはありがちだが、パク・チャヌク監督の描き方は実にユニーク。
エロとバイオレンス!しかも、確信犯的に真面目な表情で滑稽さを演出する。
チャヌクの作風を知らない人は、笑っていい場面か否か、戸惑うに違いない。
グロいが笑えて、悲哀も感じる、刺激的な秀作。センスの良い逸品。
神父と人妻の濡れ場は、文脈の中での意味合いが際立っていて、観てるとココロが勃起します。
もちろんキム・オクビンの大胆な演技&全裸も素敵で、惹きつけられます。
あらゆる物事を決して小綺麗に表現せず、そして映画的な“遊び”も知っている、
そんなパク・チャヌク作品にハズレ無し。ただし、万人ウケする映画ではないことも確か。


ニューヨーク,アイラブユー
世界中の11人の監督が短編、というかショートショートムービーを撮り、
一本に紡ぎ合わせたアンサンブル映画。共通テーマは男女の出会い、恋愛、そしてニューヨーク。
女子大生とスリ、車椅子でプロムに参加する女のコ、死期が迫る画家、老夫婦、ナンパ…
様々なストーリーが描かれるが、小粋なものもあれば、つまらない話もある。
本作をひと口に言うならば“恋愛四コマ漫画集”です。ヨリヌキ、ニューヨーク!
故に映画鑑賞充実感は薄い。決して駄作ではないが、見応えのない映画。
そんな中、日本代表として岩井俊二が監督している作品はセンスが良い。
映画音楽を手掛ける青年と監督アシスタントの話。いかにも岩井俊二テイストで素敵です。
オーランド・ブルーム、クリスティーナ・リッチ、ナタリー・ポートマン…豪華キャストだが、
実はスカーレット・ヨハンソン監督作品は諸事情で丸々カットされている。…それが観たいかも。


ボーイズ・オン・ザ・ラン
切ない、切ない、切ない、切ない、切ない、切ない、切ない、切ない、切ない、切ない。
僕個人的には、大ヒットしている『アバター』よりも本作にアカデミー賞をあげたい。
2010年2月にして、早くも今年のマイベストワン映画、最有力候補!
だからと言って、万人ウケする作品ではなく、極一部のネガティバーにとってのご馳走です。
つまり劣等感男子、あるいはダメ人間を自覚する人だけが共感して涙するんです。
でもそんな僕らを応援する様な、単純な“救い”の映画でもありません。
小綺麗に描いてハッピーエンドで結んだりはしません。切ない。つらい。胸が痛い。
彼女イナイ歴29年の主人公が、いろいろあって、いや寧ろ、いろいろ無くて(苦笑)、
最後の最後に駅でヒロインに叫ぶ場面…泣けます。最低なエロ発言なのに号泣しました。
銀杏・峯田は絶妙なキャスティング。黒川芽以も『グミ・チョコ…』同様に魅力的です。


ゴールデンスランバー
『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』、そして本作。三連勝です。
[原作:伊坂幸太郎] と [監督:中村義洋] のコンビで作られる映画は間違いない!
どこからどう見たって“いい人”な男が首相暗殺犯に仕立て上げられて逃げ回る話。
ミステリアスな設定とスリリングな展開に終始ドキドキしっぱなし。見入ってしまいます。
フィクション特有ご都合主義的トリックスターな登場人物、本筋と関係ないエピソード、
それら全てが伏線となって、ストーリーを効果的に盛り上げる。実に巧妙!無駄がない。
重要な青春回想シーンは堺雅人・竹内結子らが若々しさをデフォルメして演じますが、
小説の映像化としては微妙。でもそんな興醒めポイントを差し引いても、お釣りが出るほど面白い。
逃走劇の醍醐味だけではなく、青春の思い出にキュンと切なくなる要素も堪能ください。
二時間以上の上映時間だが、とにかくココロ鷲掴み状態で粋なエンディングを迎えます。


おとうと
山田洋次監督10年振りの現代劇は、吉永小百合と笑福亭鶴瓶が主演で、
しっかり者の姉とぐうたらな弟の物語。姉の娘役・蒼井優のナレーションで話が進んでいく。
姉と弟の対比関係を平たく例えるなら、逆『男はつらいよ』、あるいは逆『ドラえもん』です(苦笑)
寅さん同様に人情ドラマですが、寅さんほど軽妙な喜劇ではない。
勿論、弟の言動の数々が笑い所ではあるが、後半は重たい展開で、最後はお涙頂戴です。
工務店の青年、近所の親子、大阪の女性…などなど、いろんなキャラクターが居ますが、
メインストーリーとは直接関係のない人を御座成りにしないで、
全ての登場人物に気を配った脚本に仕上げているあたり、さすが山田洋次!配慮が細かい。
正直に言って、『たそがれ清兵衛』や『武士の一分』程の見応えは感じないが、
昔ながらの日本映画テイストを堪能できる温かい映画です。山田洋次作品は安定感があります。


ラブリーボーン
例えば、笑えて泣けて興奮し、最終的に感動…みたいな、いろんなジャンルてんこ盛り、
ひと粒で何度も美味しい映画を観た場合、僕は「極上エンタテイメント」と褒めまくります。
本作はファンタジー、サスペンス、滑稽なシーン、そして総合的に悲しい話でもあります。
なのに僕は称賛できません。敢えて言いたい。この作品の焦点はどこ?何がしたいの?
軸がブレまくり!美味しい幕の内弁当じゃなく、ゲテモノばっか入ったやみ鍋じゃーん!
14歳で殺された少女が主人公で、天国から語る彼女の一人称で物語は進んでいくのだが、
天国の視覚効果に凝り過ぎちゃって、ドラマ部分が御座成り。不完全燃焼。
霊感の強い同級生は取って付けた様な存在だし、コミカルな祖母は必然性がいまいち不明。
TVの二時間ドラマみたいな安っぽいサスペンス要素に興醒め。犯人の結末も呆気ない。
おもしろそうなフォーマットに期待していた分、余計に残念。もう少し頑張りま賞。


今度は愛妻家
ダメな夫(豊川悦司)と献身的な妻(薬師丸ひろ子)のお話で、カメラマンの夫には弟子が居たり、
知り合いのオカマが家に出入りしてますが、基本は夫婦の会話劇です。
ありがちな軽〜い夫婦喧嘩が続きます。TVのホームドラマを観る感覚で、
まったりとした雰囲気と時折見られるユーモアにくすり笑います。
しかし、俗に言う“サプライズ系”ムービーで、オチでびっくり!ってやつです。
他愛ない夫婦物語で驚愕のオチって!?…そこそこ勘が鋭い人なら途中で気付いてしまいます。
なので、サプライズの件は知らない体で観る方が良いでしょう。忘れてください(苦笑)
推測せず素直に感情移入すれば、かなりの確率で泣けます。詮索は禁物です。
元は2002年に上演された中谷まゆみ作のお芝居なので、映画より舞台で観てみたい作品。
しかし、行定勲監督ってじゃんじゃん映画を撮ってますねぇ。やや節操がない印象を受けます。


(500)日のサマー
『メメント』『21g』『エターナル・サンシャイン』などなど、その作品独特の 時間軸、
つまり、尋常ではない時系列で描くジグソーパズルみたいな映画がありますが、
本作はそんなタイプにカテゴライズされる作品です。しかし、装いはラブコメディ。
一見、軽妙なポップコーンムービーだが、実は意外とココロを掴まれる、楽しくも切ない内容。
運命の恋を信じる♂トムと、恋愛に懐疑的な♀サマーの、500日間をシャッフルして披露する。
物語の視点はトム側で、彼の一喜一憂する感情を映像的にデフォルメ演出!
幸せだとミュージカル仕様になり、ヘコむと画面は素っ気ない白黒イラストになってしまう。
トムの理想と現実が二分割で同時進行したり、とにかく工夫が面白い。こういうの好き。
“これはボーイミーツガールの話だが、ラブストーリーではない”という冒頭のナレーション、
そして小粋なラストシーン、センス良い佳作です。サマー役のズーイーがキュート。


かいじゅうたちのいるところ
そもそも、ガチャピンて何だよ?何者?どうやって生まれてきたの?
何を食って、どんな目的で生存してるの?…とか愚問でしょう!説明する意味も必要もナッシング。
ガチャピンは僕たちが幼い頃からそこに居て、ただただ、ガチャピンなのです。
本作に登場するかいじゅうも、彼らが住む島も、ガチャピン同様に大人の辻褄は不必要。
顔の表情だけデジタル処理した数体の“着ぐるみ”と少年の物語。ちょっとダークなNHK教育テレビ。
まあ、短い絵本が原作なので、ストーリーなんて有って無いようなもの。
このテイストオンリーで百分超えの上映時間は、やや厳しい印象も受けます。
スパイク・ジョーンズ監督の作品は、ひとつひとつのカット画、その構成、
“間”も含めて全体的に実に心地好い。音楽の載せ方も巧妙です。さすがぁ!
冒頭の映画会社ロゴ、そして本編オープニング、かなりお洒落です。


彼岸島
例えば『劇場映画の作り方』という基礎が記されたハウトゥ本があったとして、
そのマニュアルに完全依存した上で撮り上げた映画!…という印象が否めません。
ひとつひとつのエピソード、各場面の台詞、カット割り、全体的な起承転結、いちいちセオリー通り。
どこをどう切ってもベタな要素しか表れない“ベタ”の金太郎飴(苦笑)
言い換えるなら“コンパスを使えば誰でも普遍的な円が書ける”という杓子定規な作品。
吸血鬼が住む孤島を訪れた高校生たちが死闘を繰り広げる…という話のフォーマットだが、
『バイオハザード』と『バトルロワイヤル』を足して、失敗コーティングした仕上がり。
こんな映画で水川あさみがちょっとエロい演技を見せていること自体が勿体ない。
原作漫画は人気があるし面白いのかも知れないが、映画としては全く以て魅力が無い。
映画観賞経験が著しく少ない中学生くらいなら、それなりに楽しめるでしょう。